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世界の健康食:地中海食

イタリア、ギリシャ、スペインなどの地中海沿岸の国々の人が食べている伝統的な料理である「地中海食」。

地中海食は、「記憶能力」および「健康」に対する良好な研究結果が繰り返し報告されています。

地中海沿岸諸国では、心臓の病気がある人の割合が少なく、地中海食が疾患の予防や症状の改善に良いと言われています。

イギリスやドイツ、北欧などに比べて、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患が少ないのです。

そこで、地中海沿岸諸国の伝統的な食事法が「地中海式ダイエット」として注目されました。

2013年に国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)は、地中海食を無形文化遺産として登録しています。

  1. 地中海食で食べられているもの
  2. 地中海食の健康効果
    1. 記憶・認知機能を改善する
    2. 心疾患予防に効果がある
    3. テロメアの長さに影響し、長生きを促す
  3. 地中海食のポイントは油(オイル)
  4. 地中海食のダイエット効果(地中海式ダイエット)
  5. 地域により効果が出ないケースがある

地中海食で食べられているもの

オリーブオイル、全粒穀物、緑黄色野菜、果物、豆、ナッツが豊富です。

チーズとヨーグルトの発酵食品、魚がよく食べられ、食事と一緒に赤ワインも適度に飲まれています。

オリーブオイルや魚介類には多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれます。

肉、鳥、卵、菓子の消費は控えめです。

よく食べるもの

  • 野菜を豊富に毎食摂取
    (ズッキーニ・トマト・カリフラワー・インゲン・ほうれん草・レタス・マッシュルーム・オクラ・ピーマン・アーティチョーク・ホルタ)
  • 果物を毎食摂取
    (オレンジ・リンゴ・桃・キウイフルーツ・バナナ・ドライフルーツ)
  • 魚介類をよく食べる
    (ひらめ・イカ・太刀魚・ツナ・イワシ・エビ)
  • オリーブオイルを多用する
  • ナッツ、豆類を食べる
    (レンズ豆・ヒヨコ豆・タヒニ(ゴマ)・ピスタチオ・クルミ(ウォールナッツ)・アーモンド)
  • 全粒粉など未精製の穀物を食べる
  • チーズ、ヨーグルトなど発酵食品を食べる
    (チーズ・フェタ・マヌーリ・カセーリ・ヨーグルト・ザジキ・チーズ)
  • ハーブ・スパイスを使う
  • 赤ワインを飲む

たまに食べるもの

  • 鶏肉
  • じゃがいも
  • 赤身の肉(牛肉、豚肉、ラム)
  • 加工肉(ソーセージやハム)
  • お菓子やケーキなどのデザート
    (クレープ・ビスケット・ケーキ・ワッフル)

地中海食の健康効果

ハーバード大学の研究の結果から、地中海食を食べている人は、心血管疾患、がん、パーキンソン病、アルツハイマー病のリスクが低く、死亡率も低いことが明らかにされています。

生活習慣病の原因ともなる肥満を防止する効果もあり、健康的な食事であることが、さまざまな研究から明らかにされています。

  • 高脂肪食を食べても地中海沿岸諸国では冠動脈疾患が少ない
  • 地中海食は低脂肪食に比べ、心血管疾患を抑制する
    (地中海食を続けると、心臓の病気になるリスクが最大30%も低くなる)
  • 肥満の抑制に有用である可能性が示唆されている
  • 研究結果から近代の西洋的な食事よりも、全死亡率、心血管疾患、がん死亡率、がん、パーキンソン病、アルツハイマー病のリスクが低く、喘息、慢性関節リウマチの症状を改善する
  • 前向きコホート研究で、地中海食が糖尿病リスクを減少させる
  • エキストラ・ヴァージン・オリーブ・オイルを摂取した地中海食で、有意に糖尿病の発症が少ない
  • 地中海食が子宮癌(子宮内膜癌)のリスク低下に有用である
  • 健康な女性4676人において、地中海食と老化の指標であるテロメア長は有意に関連した
    (地中海食が寿命を延ばす効果がある)
  • エキストラバージンオリーブオイルを豊富に含むエサを与えたマウスは、与えていないマウスと比べて認知機能が高い
  • 地中海食を遵守することで、脳卒中は29%減少、うつ病は32%減少、認知障害は40%減少した
  • 認知症の主原因であるアルツハイマー病の発症は57%減少した

記憶・認知機能を改善する

バルセロナでおこなわれた研究で、地中海食は高齢者の「認知症予防にも効果がある」ことが示されました。

この研究では、447人の認知機能低下がない方が対象となりました。

対象:
男性164人、女性170人(女性 52.1%)
61~72歳(平均年齢 69.9才)

この研究では、対象者は以下の3グループにランダムに振り分けられました。

  1. 地中海食+オリーブオイル使用(1週間に1Lのオリーブオイルを提供) (被験者127名)
  2. 地中海食+ミックスナッツを使用(15グラムのクルミ、7.5グラムのヘーゼルナッツ、および7.5グラムのアーモンドのミックスナッツを1日30g提供)(112人の対象者)
  3. 食事の脂質を制限(低脂肪食を摂取する方法を説明した対照食)(95人の被験者)

平均4.1年の追跡調査をおこない、「記憶」とその他の「認知機能」において、地中海食の摂取が認知機能の低下を抑えている結果となりました。

なお、オリーブオイルをふんだんに使用したグループと、ナッツを使用したグループの間では、大きな差は見られませんでした。

心疾患予防に効果がある

地中海食に近い食事を取り続けた女性では、そうでない女性に比べて心疾患リスクが25%低いことが分かりました。

地中海食の心疾患予防効果には、炎症や糖代謝、肥満度といった従来の心血管リスク因子が影響しています。

米ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のShafqat Ahmad氏らは、米国のWomen's Health Study(WHS)に参加した健康な女性2万5,994人(平均年齢54.7歳)を対象に、地中海食の遵守度で3つのグループに分けて、最長で12年間追跡しました。

その結果、心疾患リスクは、地中海食の遵守度が「中程度の群」と「最も高い群」を合わせると、「最も低い群」に比べて心疾患リスクは25%低かったのです。

心疾患リスク
  1. 地中海食の遵守度が最も低い群(基準値 0)
  2. 遵守度が中程度だった群(-23%)
  3. 遵守度が最も高い群(-28%)

Ahmad氏らは、地中海食に近い食事を取り続けた女性にみられた心疾患リスクの低減度は、コレステロール低下薬のスタチンや他の心疾患予防薬を服用した場合と同程度だとしています。

こうした心疾患リスク低減の29.2%は、地中海食による炎症の低減と関連していることを突き止めました。

他にも、心疾患リスクの低減には、糖代謝およびインスリン抵抗性の改善(27.9%)と肥満度(BMI)の減少(7.3%)のほか、血圧(26.6%)とコレステロール値(26.0%)などの変化とも関連していました。

以上の結果を踏まえ、Ahmad氏は
「炎症や糖代謝、インスリン抵抗性のほか、血圧と脂質といった従来の心血管リスク因子が、長期にわたる地中海食による心血管疾患の予防効果と関与していることが分かった」
と結論づけています。

テロメアの長さに影響し、長生きを促す

米ハーバード大のMarta Crous-Bou氏らは、地中海食と寿命の関係を調査して、地中海食がテロメアの長さに影響し、長生きを促すと発表しました。

テロメア

染色体の末端を保護する役割を担い、その長さと長寿の関係が数々の先行研究で示されています。

誰しも加齢に伴って短くなりますが、糖分の多い飲み物の摂取や喫煙、ストレス、うつ病、活性酸素による酸化や炎症でも短縮することが分かってきました。

逆に、より長いテロメアは、低い体重指数や健康的な食事、身体活動など、健康的なライフスタイルとの関連が報告されています。

地中海食の抗酸化・抗炎症作用

地中海食の主要な要素である野菜や果物、ナッツ類には、抗酸化・抗炎症作用があります。

これらの食品群を含む地中海式ダイエットの実践がテロメアの長さに関連するこという仮説を立てました。

4千人以上のデータを解析

米ハーバード公衆衛生大学院が女性看護師12万1700人を対象に1976年から今も継続している追跡研究(NURSES' HEAILTH STUDY; NHS)のデータを解析しておこなわれました。

対象者:
米ハーバード公衆衛生大学院が女性看護師
1989・90年に採取した32,825人の血液を分析し、がんや心血管疾患などの慢性疾患がなく健康と判断された4,676人

解析方法:
1986年に行われた130食品に関するアンケート結果に基づき、各対象者の食事に、伝統的な地中海食がどの程度採り入れられているかを点数化しました。

  • 野菜(ジャガイモを除く)
  • 果物
  • ナッツ類
  • 全粒穀物
  • 豆類
  • 魚介類
  • 一価不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸(摂取比率、一価不飽和脂肪酸の代表例はオリーブ油、飽和脂肪酸の代表例は肉の脂身やバター等の動物性脂質)

について、それぞれ中央値よりも積極的に摂取していれば、1点ずつ加算します。

  • 赤身肉および加工肉は中央値より摂取が少ない
  • アルコール摂取は適量とされる範囲内

に該当すれば、それぞれ1点加算します。

合計点数が9点に近いほど、地中海食に近い食生活を意味します。

また、保存してあった血液サンプルの白血球からゲノムDNAを取り出し、テロメアの長さを測定しました。

地中海食の度合いが高いほど老化を遅らせる!

結果、地中海式ダイエットの評価点数が高いほど、テロメアは大幅に長い状態が保たれていることが分かりました。

逆に、点数が1点減るごとに、テロメアの短縮、つまり老化は平均1.5年分進みました。

評価が3点減れば平均4.5年の老化に相当しますが、この数字は、喫煙の有無や身体活動の量に匹敵します。

  • 非喫煙者に対する喫煙者の老化の進み具合:4.6年
  • 身体活動の多い女性に対する少ない女性の老化:4.4年
  • 恐怖症や不安障害の程度が弱い女性と強い女性の老化の差:6年

地中海食のポイントは油(オイル)

オリーブオイル

年間一人当たりのオリーブ消費量は日本の100倍!

大量のオリーブオイルを消費している地中海地域の人々は、心血管病(動脈硬化に関係する疾患)による死亡率が世界でもっとも低いことが分かっています。

彼らが心血管病になりにくい理由は、オリーブオイルに含まれる成分の作用による効果だた、米ミネソタ大学のアンセル・キーズ博士らは、結論付けています。

オリーブオイルの成分の7~8割は、血中の中性脂肪やコレステロール値を下げる働きをするオレイン酸で占められています。

残りの成分であるビタミンEやポリフェノールは、悪玉コレステロールを抑えて老化の進行を防ぐ作用をもたらします。

ギリシャでは毎食、1人あたり大さじ1.7杯分(年間およそ25キログラム)のオリーブオイルが消費されると言います。

また、オリーブ果実を搾ってろ過しただけで、化学的な処理をおこなっていない、そのままのエキストラバージンオリーブオイルに、認知症の発症を防ぐ効果があることもわかっています。

獣肉は少なく、魚介類が中心

イワシ、サバ、サンマといった青魚には、不飽和脂肪酸「オメガ3系脂肪酸」であるEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が多く含まれています。

魚以外では、クルミなどのナッツ類に含まれる「α-リノレン酸」もオメガ3系脂肪酸です。

オメガ3系脂肪酸は、中性脂肪を下げる作用があり、インスリン抵抗性を改善するはたらきもあるという研究報告もあります。

血管壁に起こる炎症を抑えたり、血液の血小板が固まり血管が詰まりやすくなるのを防ぎ、血液をサラサラにする作用があり、血圧を下げる効果もあります。

全国の4万人の男女を10年以上調査した大規模研究で、魚を週3回以上食べる人は、心筋梗塞など心疾患の発症が減ることが分かりました。

代表料理には、トマトやオリーブオイルなどと一緒に魚を煮込んだナポリ料理のアクアパッツァ、ヨーロッパ諸国で古くから親しまれているムール貝の白ワイン蒸しなどがあります。

地中海食のダイエット効果(地中海式ダイエット)

減量効果があると言われている「低炭水化物食(糖質制限ダイエット・アトキンスダイエット)」、「地中海式ダイエット」、「低脂肪食ダイエット」の減量効果を比較した実験がイスラエルでおこなわれました。

  1. 地中海食(地中海式ダイエット)
  2. 低炭水化物食(糖質制限ダイエット・アトキンスダイエット)
  3. 低脂肪食

2年間の試験期間後に減量効果を比較したところ、「地中海食(−4.4kg )」と「低炭水化物食(−4.7kg )」は同程度の減量がみられ、「低脂肪食(−2.9kg )」よりも効果がありました。

さらに4年後に被験者を追跡調査すると、各々リバウンドして、低脂肪食(2.67kg)、地中海食群(1.4kg)、低炭水化物食(4.1kg)体重が増加しました。

試験スタート時から6年後の体重減少は、地中海食の食事のグループが最も効果的でした。

  1. 地中海食(-3.1kg)
  2. 低炭水化物食(-1.7kg)
  3. 低脂肪食(-0.6kg)

地域により効果が出ないケースがある

オリーブ、ナッツなどの地中海食を、600人の人に食べてもらい経過を調査しました。

加齢とともに徐々に進むのが「慢性炎症」は、心臓疾患や認知症などの病気に影響を及ぼします。

この炎症の数値は地中海食により、全体的には、確かに低くなりました。

魚、オリーブオイル、ナッツ、野菜、これらに含まれる脂肪酸や、ポリフェノール、リコピンなどが炎症を抑える効果があったと考えられます。

しかし、オランダやイタリアでは、地中海食の度合いが高いほど炎症レベルが低くなっていますが、フランスでは影響が小さく、イギリスでは効果が見られませんでした。

人種、ライフスタイル、性別、生活習慣など様々な要因によって、「効果がある」「効果なし」と異なることも分かりました。

この「地中海食プロジェクト」の調査により、「誰でも地中海食を実施すれば炎症を抑えることができる」ということではないことがわかりました。

2章 食