肥満の増加は世界的な問題となっています。
健康的に長期的にやせられるダイエットは何か?
減量効果があると言われている「低炭水化物食(糖質制限ダイエット・アトキンスダイエット)」、「地中海食(地中海式ダイエット)」、「低脂肪食ダイエット」の減量効果を比較した実験がおこなわれました。
やせる(ダイエット効果がある)のはどれ?
- 低脂肪食
- 低炭水化物食(糖質制限ダイエット・アトキンスダイエット)
- 地中海食(地中海式ダイエット)
それぞれの食事を2年間にわたって、体重変化を調査しました。
2年後の体重変化
2年後の減量効果を比較したところ、「地中海食(−4.4kg )」と「低炭水化物食(−4.7kg )」は同程度の減量がみられ、「低脂肪食(−2.9kg )」よりも効果がありました。
- 低炭水化物食(−4.7kg )
- 地中海食(−4.4kg )
- 低脂肪食(−2.9kg )
短期的には低炭水化物食での体重減少がかなり大きいです。
しかし半年後から低炭水化物食にリバウンドがおこりました。
中長期的(1年後)には地中海食と低炭水化物食には有意差がなくなりました。
6年後の体重変化
2年間の実験が終わった後、4年後に被験者を追跡調査しました。
各々リバウンドして、低脂肪食(2.67kg)、地中海食群(1.4kg)、低炭水化物食(4.1kg)体重が増加しました。
6年間を通しての体重減少は、地中海食の食事のグループが最も効果的でした。
- 地中海食(-3.1kg)
- 低炭水化物食(-1.7kg)
- 低脂肪食(-0.6kg)
- ダイエットの効果を実験
- 調査方法:
- 24か月後の体重(結果)
- 6年後の体重
- 地中海式ダイエットが効果的な理由
ダイエットの効果を実験
3つの減量食(低脂肪食、地中海食、低炭水化物食)の有効性・安全性を比較することを目的として、イスラエルで2年間にわたる無作為化比較試験(DIRECT)がおこなわれました。
対象者:
- イスラエル・ディモナの研究所に勤務
- 平均年齢:52歳
- 男性の割合:86%
- (1)40~65歳・BMI 27 kg/m2以上
- (2)2型糖尿病または冠動脈疾患を有する
- (1)、(2)のいずれかに該当する男女のうち、除外基準に該当する人を除いた322人(男性277名・45名女性)
(除外基準:妊娠・授乳中,血清クレアチニン値≧2 mg/dL,肝機能障害、試験食摂取の障害となる胃腸の問題、癌、またはその他の食事関連の試験への参加)
調査方法:
試験期間は2年間(2005年7月~2007年6月)。
対象者は「低脂肪食」「低炭水化物食」「地中海食」のいずれかに無作為に割り付けられます。
各群の管理栄養士による計18回(第1、3、5、7週とその後6週間ごと、各90分)のセッションで以下のような食事指導を受けました。
低脂肪食
- 総摂取エネルギー量を制限
(男性1,800 kcal以下、女性1,500 kcal以下)
- 30%を脂肪から、10%を飽和脂肪酸からエネルギーを摂取
- 1日のコレステロール摂取量は300mg以下
低脂肪穀物、野菜、果物、豆類を多く摂取し、脂肪分、甘いもの、カロリーの高いスナックなどは控えるように指導。
地中海食
- 総摂取エネルギー量を制限
(男性1,800 kcal以下、女性1,500 kcal以下)
- 脂肪からのエネルギー摂取は35%未満
- 脂肪のおもな摂取源は
オリーブオイル(30~45g)
少量の豆類(5~7個、20g未満)
野菜を多く摂取し、赤身肉を控えるように指導(牛肉・羊肉のかわりに鶏肉・魚を摂取)。
低炭水化物食
- 総摂取エネルギー量、蛋白質、脂肪の摂取量に制限はなし
- 最初の2か月(誘導期間)、および宗教的な休日の直後には炭水化物摂取量を1日20gまで抑える
- その後に体重減を維持できる範囲で、最大1日120gまで段階的に炭水化物摂取量を増やしていく
蛋白質および脂肪はなるべく動物性ではなく植物性食品から摂取し、トランス脂肪酸の摂取は避けるように指導。
24か月後の体重(結果)
24か月後の全体のアドヒアランス率は84.6%(低脂肪食群90.4%、地中海食群85.3%、低炭水化物食群78.0%)。
患者背景:BMI 31kg/m2、血圧131.3 / 79.7mmHg、腹囲105.9cm、2型糖尿病14%、冠動脈疾患37%。
低炭水化物食群:
ほかの2群にくらべて炭水化物の摂取量が有意に少なく(P<0.001)、蛋白質、総脂肪、飽和脂肪酸、総コレステロールの摂取量が有意に多かった(P<0.001、総コレステロールのみP=0.04)
地中海食群:
ほかの2群にくらべて一価不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸摂取量の比が有意に高く(P<0.001)、また低炭水化物食群にくらべて繊維質の摂取量が有意に多かった(P=0.002)
低脂肪食群:
低炭水化物食群にくらべて飽和脂肪酸の摂取量が有意に少なかった(P=0.02)
体重の変化
試験期間中の体重は、いずれの群においても1~5か月後に大きく低下しました。
低炭水化物食群と低脂肪食群はその後、部分的な増加の後に一定の値に落ち着く傾向を示しました。
ベースラインから24か月後の体重変化(一次エンドポイント)は以下のとおりです。
低脂肪食群にくらべ、地中海食群および低炭水化物食群で有意に低下度が大きくなりました(群×時間の相互作用のP<0.001)。
- 低脂肪食群:-2.9kg
(男性-3.4kg、女性-0.1kg) ± 4.2kg
- 地中海食群:-4.4kg
(男性-4.0kg、女性-6.2kg) ± 6.0kg
- 低炭水化物食群:-4.7kg
(-男性4.9kg、女性-2.4kg) ± 6.5kg
2年間のダイエットを全うした272名の体重減少の平均±標準偏差
- 低脂肪食群:−3.3 ± 4.1kg
- 地中海食群:−4.6 ± 6.0kg
- 低炭水化物食群:−5.5 ± 7.0kg
尿中ケトン体
24か月後に検出可能な尿中ケトン排泄をみとめた人の割合は、
- 低炭水化物食群(8.3%)
- 低脂肪食群(4.8%)
- 地中海食群(2.8%)
低炭水化物食群が有意に高くなりました(P=0.04)。
BMIの変化
低脂肪食群-1.0kg/m2、地中海食群-1.5kg/m2、低炭水化物食群-1.5kg/m2と有意な群間差がみられました(群間比較のP=0.05)。
- 低脂肪食群:-1.0 ± 1.4kg/m2
- 地中海食群:-1.5 ± 2.2kg/m2
- 低炭水化物食群:-1.5 ± 2.1kg/m2
ウェスト周り減少
- 低脂肪食群:2.8 ± 4.3cm
- 地中海食群:3.5 ± 5.1cm
- 低炭水化物食群:3.8 ± 5.2cm
収縮期血圧
- 低脂肪食群:4.3 ± 11.8mm Hg
- 地中海食群:5.5 ± 14.3mm Hg
- 低炭水化物食群:3.9 ± 12.8mm Hg
拡張期血圧
- 低脂肪食群:0.9 ± 8.1 mm Hg
- 地中海食群:2.2 ± 9.5 mm Hg
- 低炭水化物食群:0.8 ± 8.7 mm Hg
試験期間中の血圧および代謝系因子の推移
- 腹囲:
すべての群でベースラインよりも低下したが、群間に有意な差はみられなかった
- 血圧:
すべての群でベースラインよりも低下したが、群間に有意な差はみられなかった
- HDL-C:
すべての群でベースラインよりも増加しており、
低炭水化物食群における増加度(+8.4 mg/dL)は
低脂肪食群(+6.3 mg/dL)よりも有意に大きかった
(群×時間の相互作用のP<0.01)
- 中性脂肪(トリグリセリド):
低炭水化物食群における低下度(23.7 mg/dL)は、
地中海食群(21.8 mg/dL)とほぼ等しく、
低脂肪食群(2.8 mg/dL)よりも有意に大きかった
(群×時間の相互作用のP=0.03)。
- LDL(悪玉)コレステロール:
すべての群でベースラインからの変化はみられず、群間にも有意な差はみられなかった
- 総コレステロール/HDL(善玉)コレステロール比:
低炭水化物食群で-20%ともっとも大きく低下しており、
低脂肪食群(-12%)との有意差がみとめられた
(群×時間の相互作用のP=0.01)。
- 高感度CRP:
地中海食群、および低炭水化物食群でベースラインよりも有意に低下していたが、群間に有意な差はみられなかった
- アディポネクチン:
すべての群でベースラインよりも有意に増加したが、群間に有意な差はみられなかった
- レプチン:
すべての群でベースラインよりも有意に低下したが、群間に有意な差はみられなかった
- 空腹時血糖:
糖尿病を有する人でみると、地中海食群で低脂肪食群よりも有意に低下していた
糖尿病のない人では、群間に有意な差はみられなかった
- 血中インスリン:
糖尿病の有無を問わず、すべての群でベースラインよりも有意に低下していたが、群間に有意な差はみられなかった
- インスリン抵抗性指標(homeostasis model assessment of insulin resistance: HOMA-IR):
糖尿病を有する人でみると、地中海食群で低脂肪食群よりも有意に低下していた
- HbA1c:
糖尿病を有する人でみると、低炭水化物食群でのみベースラインよりも有意に低下していたが、群間に有意な差はみられなかった
6年後の体重
4年間フォローアップ
2年間の介入試験が終わった後、259名を被験者として4年間追跡調査のITT解析をおこないました。
(この人数は、当初の参加者322名の約80%、2年間の実験を全うした272名の約95%に相当します)
※ITT解析:
臨床試験の進行に伴い、被験者に割り付けられた両方が続行不能となった被験者をもすべて含めて解析することです
被験者は定期検診のために、年に一度クリニックに赴き、そこで健康な食事を続行するよう奨励されました。
栄養素のラベリングと食事のカラーコーディングは打ち切られましたが、カフェテリアによる食事は継続して提供されました。
食事順守のための食事セッションや他の活動は継続しませんでした。
体重の変化
最終的に6年間を通して全うし得た被験者は67%でした。
11%は他のダイエットに変え、
22%はダイエットを断念しました。
この4年の期間中に各々リバウンドして、低脂肪食(2.67kg)、地中海食群(1.4kg)、低炭水化物食(4.1kg)体重が増加しました。
6年間を通しての体重減少は、地中海食の食事のグループが最も効果的でした。
- 地中海食(-3.1kg)
- 低炭水化物食(-1.7kg)
- 低脂肪食(-0.6kg)
地中海式ダイエットが効果的な理由
- 制限が辛くないので、無理なく続けることができる
- リバウンドがほとんどない
地中海沿岸の「地中海食」離れの影響
地中海沿岸の食生活がこの45年で変わってきています。所得が増え、肉製品や高脂肪食品の摂取が増加し、エネルギー摂取量も増えているといいます。
特にギリシア、イタリア、スペイン、ポルトガル、キプロス、マルタでは、食べすぎが増えた結果、肥満の割合が高くなり、肥満の割合は国の人口の半分以上になっています。
ギリシアでは、エネルギー摂取が増えた一方で、消費エネルギーは減っており、肥満指数(BMI)はEU加盟国でもっとも高く、肥満や過体重も急速に増えていて、全人口に占める肥満の割合は4人中3人に上ってしまいました。
食生活の変化の要因として
- ファーストフードやレストラン、スーパーに行く機会が増えたこと
- 仕事をもつ女性が増え、家庭での食事が減り外食が増えたこと
- 運動をしなくなったこと
などが考えられています。