ヒトの皮膚や消化管には、様々な常在菌が生息しています。体は害のある菌から、この常在菌によって守られているのです。
皮膚、口腔、腸管、腟などに存在している真菌のカンジダ菌も常在菌です。通常は、カンジダ菌が体に害となることはありません。
しかし、何かしらの原因で他の菌のバランスを崩れた場合、カンジダ菌が異常に増殖して、日和見感染「カンジダ症」を起こすことがあります。
真菌はカビなので、体にカビが生えるような状態です。体はカンジダ菌に対する免疫応答で、炎症をおこします。
増殖したカンジダ菌と炎症により、体に様々なトラブルを引き起こします。
さらにカンジダ症は悪化するほど、治療が大変になります。早期の対処が必要です。
カンジダ症は気づきにくい
カンジダ症の中でも、特に厄介な全身の影響を与える腸カンジダは自覚症状がなく、感染していても気づくのが難しいです。
また膣カンジタ等に関しては多くの検査キットが出回っていますが、腸カンジダの検査は良い検査が少ないのです。
まずは見えるところや症状からチェックしてみましょう。
カンジダ菌チェック
唇の両端(口角)が荒れていたり、舌に白い苔が出ていると、真菌(カビ)のカンジダ菌が増殖している可能性が高いです。
40歳以上の方は胃カメラで検査の時、食道にカンジダ菌でできる斑点がないかチェックしてもらいましょう。
下記に当てはまる方は、カンジタ菌が優位になっている可能性が高いです。
- 甘いものが異常に欲しくなる
- 甘いもの・砂糖の多いお菓子やスイーツなどを頻繁に食べている
- 食後に低血糖症状が起こる
※頭がはたらかない、ぼーっとする、気分の変調
- 食後に眠気がおこる
- やる気が起こらず、疲労感も抜けない
- 皮膚に原因不明の痒みがある
- 水虫や膣カンジタになったことがある
- 腹部の膨満感や、ガスが溜まる感じがある
- 便秘や下痢である
口角炎
口角炎は、唇の両端(口角)が炎症により荒れる皮膚疾患です。
口角に亀裂や腫れ、痂皮(かひ・かさぶた)ができます。ずきずきと痛み、口を開いた時に特に痛みます。
口角が赤っぽくなったり(発赤)、灰白色あるいは乳白色の点状や線状に吹き出物ができ、かぶれたようになる場合もあります。
亀裂などの損傷が生じた口角は絶好の感染場所となります。
口唇炎は主にカンジダが皮膚を刺激してかぶれを生じるのが主因と考えられ、カンジダ性口唇炎とも呼ばれます。
口角炎の症状
- 口角が切れて肌がカサカサになる
- 口角に亀裂ができる
- 口角が熱を持ち、周辺の皮膚が赤みを帯びる
- 口角が切れてかさぶたになる
- 刺激物が口角に触れると痛みを生じる
治療
抗真菌薬が、塗り薬や飲み薬として使用されます。
口の中でカンジダが増殖している可能性がありますので、合わせて検査、治療が必要です。
舌が白くなる
舌に付着する白い苔状のものを舌苔(ぜったい)と呼びます。
起床時に舌をチェックしてみましょう。
舌の上に全体的に白い苔状のものがついている場合は、カンジダ症の可能性が高いです。
舌苔は、1日に1回、起床時に舌専用のブラシ(舌ブラシ)で、舌を傷つけないように優しく丁寧に落とします。
水に浸したを舌苔の一番奥に当て、軽い力で手前に引きます。
一度引くごとに舌ブラシを水で洗います。
舌苔を落とすだけで大丈夫です。磨きすぎは口内細菌によくありません。
口の中にあるネバネバは、飲み込まずうがいで出しましょう。
口腔カンジダ症
おもにカンジダ菌によっておこる口腔感染症です。急性型と慢性型があります。
口腔粘膜の痛みや味覚障害が出ることもあります。
急性型
急性型である偽膜性(ぎまくせい)カンジダ症は灰白色あるいは乳白色の点状、線状、あるいは斑紋状の白苔が粘膜表面に付着しています。
この白苔をガーゼなどでぬぐうと剥離可能ですが、剥離後の粘膜面は発赤やびらんを呈しています。
白苔が認められない萎縮性あるいは紅斑性(こうはんせい)カンジダ症は、舌乳頭の萎縮や粘膜の紅斑が特徴で、偽膜性よりもヒリヒリとした痛みが強くなります。
慢性型
病変が慢性に経過した肥厚性(ひこうせい)カンジダ症では、白苔は剥離しにくく、上皮の肥厚を伴うようになります。
治療
口腔内の清掃、抗真菌薬を含むうがい薬や塗り薬を使用しますが、時に抗真菌薬の内服を必要とすることもあります。
甘いもの欲求と食後の症状
カンジタ菌は糖質を栄養源とするため、カンジタ菌が増殖すると、食後に食べた糖をカンジタ菌がエサとして食べてしまいます。
そうすると甘いもの・砂糖の多いものや、糖質の多い精製された炭水化物が、より一層食べたくなります。
糖質の多い食品は血糖値を急上昇させるため、食べ過ぎると、低血糖症状を起こすことがあります。
低血糖の症状としては下記になります。
- 頭がはたらかない(思考の停止)、頭に霧がかかったようになる
- ぼーっとして集中力がない
- 食後に眠気がおこる
- イライラ、不安感や恐怖感、やる気が起こらず、うつのような症状
- 手の震え
過去に水虫・膣カンジタ
水虫や膣カンジタの背後には、腸カンジタが存在する事が多いのです。
しかし大半の場合は、水虫には塗り薬、膣カンジタには膣錠といった局所の治療のみしか行われません。
- 疲労感も抜けない
- 皮膚に原因不明の痒みがある
- 腹部の膨満感や、ガスが溜まる感じがある
- 便秘や下痢である
腸内カンジダ菌
腸内には、善玉菌や悪玉菌など、多くの細菌が存在し、カンジダ菌など真菌が腸内で占める割合は、通常は全体の1%程度です。
しかし、免疫を中心とした防御力が弱くなり、カンジダ菌への抵抗力が軟まることで、力のバランスが狂いだし、カンジダ菌が増殖します。
真菌はカビなので、体内でカビが生えるような状態です。
体はカンジダ菌に対する免疫応答で、炎症をおこします。
腸カンジダ症になると症状
カンジダ菌が増殖することで、様々なトラブルを引き起こします。
- 腸の炎症を引き起こす
- 様々な有害物質を発生させる
- 低血糖を引き起こす
- 免疫トラブルを起こす
- 不眠や自律神経の乱れなど、体の悪循環を引き起こす
症状は多岐にわたります。
- 消化器症状:
- 全身症状:
- 頭痛
- 疲れ(疲労感・慢性疲労)
- 筋肉痛
- 低血糖
- 皮膚発疹
- アレルギー反応など
- 精神症状:
- うつ
- 集中力の低下
- 情緒不安定
- 砂糖に対する渇望
- 記憶障害
- 睡眠障害など
便・尿の検査
便検査により
- 腸内細菌(良性細菌・悪性細菌・日和見菌)のバランス・種類・量
- 食物の消化吸収機能
- 腸内pH
- 腸粘膜の免疫状態
- 炎症のマーカー
など検査することができます。
尿検査では、
- 身体の代謝機能(エネルギーを生み出す力)の異常
- 腸内悪性細菌・酵母菌の過剰増殖
- 神経伝達物質(セロトニンやカテコラミン)、ビタミン類の過不足
- 酵母菌の存在
など検査することができます。
体内でカビが増殖する
カンジダ症の原因となるのは、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)という真菌です。
カンジダ菌は赤ちゃんの頃、お母さんから分娩時や哺乳時に菌をもらうことで、体に入り込み、常在菌として生き続けます。
通常カンジダ菌は、元気な若者に対しては、健康上の被害をほとんど与えません。
時として、カンジダ菌は口や食道、腸内で増えて、ヒトの免疫系を刺激して、細胞性免疫を強めます。
※細胞性免疫は、体内の異物を排除するために攻撃する局所的に起こる免疫反応です。
カンジダ菌は体の免疫力を高める役割をします。
しかし、
- 慢性のストレス
- 免疫力の低下
- 食事の内容の偏り
- 甘いもの・加工食品の食べ過ぎ
- 糖尿病
- 善玉菌や食物繊維の不足
- 抗生物質・ステロイド薬・ピルを使用している
- 重金属
- 寝不足
- 過労
- 便秘
などによってカンジダが腸内で異常繁殖すると、カンジダが病原性をもちます。
菌糸を出して菌糸形になり、住処となるバイオフィルムを形成し、厄介な感染症を引き起こします。
カンジダが腸の壁を壊す
カンジダが腸内で異常繁殖すると、菌糸を出して菌糸形になり、腸壁に付着して腸の壁を壊し、リーキーガット症候群(腸管壁浸漏症候群)を引き起こします。
リーキーガット症候群(LGS)は、腸の粘膜に穴が空き 、異物(菌・ウイルス・たんぱく質など)が血管内に漏れだす状態です。
カンジダ菌の形態変化
カンジダ菌は「酵母」と「菌糸」という2つの形態をとります。
酵母とは、1個1個が独立した卵型をしています。
カンジダ菌は栄養状態が良いと酵母の形をして、次々に増殖して殖えます。
ヒトの身体の中でカンジダ菌が増えすぎると、菌糸を出して菌糸形になります。
菌糸で腸に根を張る
菌糸形になったカンジダ菌は、その先端を組織に侵入させ病変を起こすことがあります。
カンジダ菌は腸内で菌糸形になると、指に棘が刺さった時のように、腸粘膜に菌糸を刺します。
菌糸を粘膜に侵入させると、粘膜の正常細胞を貫通して、組織の奥まで糸状に伸ばして侵入します。
さらに根を張るように腸粘膜で菌糸を広げます。
カンジダ菌 vs 白血球
粘膜への菌糸の侵入に生体側は反応して、白血球を集め阻止しようと対抗します。
この白血球と菌との戦いを起こさせるのがカンジダ菌の特徴です。
この戦いが免疫反応を引き起こし、炎症が起こります。
菌糸形に増殖したカンジダ菌は、たんぱく分解酵素を分泌することで、さらに炎症が起こります。
カンジダ菌が強く免疫に影響を与える主な原因です。
腸壁にすき間をつくる
小腸の表面の粘膜には、高さ0.5~1.2mm程度の腸絨毛という小さな突起があります。
さらに腸絨毛表面にあるワイングラス型の杯細胞は、長さ1μm、太さ0.1μmの細やかな突起、細胞1個あたり約600本の微絨毛で覆われています。
ここから消化されて細かい分子になった栄養素が体内に吸収されます。
小腸は、消化できていない大きな分子は吸収しません。
しかし、菌糸形になったカンジダ菌が、腸粘膜に菌糸を刺し、根を張るように腸粘膜で菌糸を広げます。
これにより腸粘膜の上にある上皮細胞と上皮細胞のすき間を結合している部分「タイト・ジャンクション」が開いてしまいます。
そうすると通常は吸収しない、未消化のタンパク質や細菌・ウイルス・重金属・化学物質などの異物までも取り込まれてしまいます。
これがリーキーガット症候群の原因となります。
アレルギー反応(炎症)が起きる
腸粘膜の細胞と細胞のすき間を結合部分タイト・ジャンクションから血管内に漏れだした大きな分子は、血管を通り身体のいたるところに運ばれます。
本来、血液中には存在しない分子なので、防御のためにアレルギー反応(炎症)が起きてしまうのです。
また細菌やウイルスなどを取り込んでしまい、感染症を起こしやすくなったり、免疫力低下の原因になります。
異物や細菌の処理のために、肝臓や腎臓に過剰な負担がかかります。
増殖の足場となるバイオフィルム形成
菌糸形になったカンジダ菌は、バイオフィルムを形成します。
バイオフィルムとは、洗い場の隅のヌメリなどのように、細菌や真菌などの微生物が、不特定の場所に接着する環境です。
バイオフィルムは、フィルムと言葉から表面を覆っている膜のようなものとイメージされがちですが、微生物とその他のものが混じり合ったもの全体のことです。
カンジダ菌のバイオフィルムは、べっとりとした白い塊が腸粘膜にへばりついているようです。
バイオフィルムによって流されずに、留まり続けることができます。
一旦、バイオフィルムが形成されると、自由に浮游している菌と違い、バイオフィルム中の菌には抗菌薬が効果的に作用しないので、カンジダ菌の除去が難しくなります。
感染症を治すためにはバイオフィルムを除去する必要が生じます。
バイオフィルムが体内で自然に分解されることはありません。
寿命を短くさせる慢性炎症になる
カンジダの過剰増殖によって、腸管から異物が侵入すると、カンジダ菌や腸管内容物が抗原となり、液性免疫を引き起こします。
※液性免疫は、体液性免疫とも呼ばれ、B細胞が大量の抗体を産生し、抗体が体液中を循環して全身に広がる免疫反応です。
体内の細胞や組織で、免疫細胞が抗原と共に、自分自身の細胞・組織を過剰に攻撃してしまうアレルギー反応や自己免疫疾患がおこります。
皮膚反応も液性免疫で起こるものと推定されています。
液性免疫は、体内で慢性炎症を起こす原因となります。
近年の長寿研究では、慢性的な炎症の持続は寿命を短くさせることが示唆されています。
カンジダ菌感染による慢性炎症は、寿命にも関係すると言っても過言ではないかもしれません。