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断食(ファスティング)の安全性

病気を治療するために、食事を摂らない絶食療法(断食療法、ファスティング・セラピー)をおこなう医療施設があります。

食べなくても安全なのでしょうか?

専門病院内での断食(ファスティング)の安全性を研究しました。

肥満ではない人を含む1422人の参加者が、4~21日の断食期間からなる絶食プログラムに参加しました。

参加者は、毎日のカロリー摂取量200~250kcalで断食しました。

断食により、参加者の体重・腹囲・血圧が低下しました。

また血糖値を正常範囲へ低下させ、ケトン体レベルが増加し、グルコースから脂肪酸由来ケトンへの代謝スイッチの切り替えを記録しました。

断食する前と比較して、身体的幸福感と精神的幸福感の幸福度が上がりました。

驚いたことに参加者の93.2%が空腹感を感じていませんでした。

健康上の不満をかかえた404人の参加者のうちの341人、84.4%の人が断食によって改善したと報告しました。

辛いと報告したのは参加者の1%未満でした。

1422人の参加者からの結果は、4日~21日まで続く断食(ファスティング)が安全で、健康改善の可能性が高いことが示されました。

大規模な断食(ファスティング)の研究

18歳~99歳までの1422人の参加者が、Buchinger絶食療法のプログラムに従って、医療監督下で4~21日間の断食をしました。

断食(ファスティング)は、治療的絶食を専門とする施設、ドイツのBuchinger Wilhelmiクリニック(BWC)で行われました。

断食療法に対する禁忌の悪液質(何らかの疾患を原因とする衰弱した状態)、拒食症または摂食障害、進行性腎臓、肝臓または脳血管障害、認知症または他の重症衰弱性認知疾患、妊娠または授乳期に該当する人は含まれていません。

Buchinger絶食療法の断食プログラム

断食(ファスティング)の開始前日(準備期間):

参加者は、個人の好みに応じて、米と野菜または果物の3食に分けられた600kcalの菜食中心の食事(ベジタリアン食)をします。

断食(ファスティング)を開始する前:
下剤(500mlの水に20~40gのNaSO4(硫酸ナトリウム)を加える)によって腸管を空にします。

断食(ファスティング)中(断食期間):

水、またはカロリーのないハーブティーに20gの蜂蜜から好きな量を加えて、毎日3リットル飲みます。

正午には、オーガニックの絞りたてフルーツジュースまたは野菜ジュース(250ml)を飲みます。

夕方には、野菜スープ(250ml)を飲みます。

1日の平均総カロリー摂取量は200~250kcal、炭水化物は25~35gです。

腸の残存物および落屑した粘膜細胞を除去するために、浣腸、患者が望む場合には、軽い下剤を2日ごとに適用しました。

断食(ファスティング)の最終日(回復期間):

平均4日間で段階的に回復食を食べていきます。

オーガニックで乳卵菜食の食事で、800から1600kcal/日まで徐々に増やしました。

絶食療法の参加者のベースライン

18歳~99歳までの1422人
平均年齢:55.4歳

女性:59.1%
男性:40.9%

肥満ではない参加者:901人
BMI<25:28.4%
25≦BMI<30:35.0%

肥満の参加者:425人
30≦BMI<35(グレードIの肥満):19.5%
35≦BMI(グレードII以上の肥満):10.3%

絶食療法による変化

断食(ファスティング)により、体重・ウエスト・血圧が低下しました。

体重およびウエストの変化は、女性と比較して、すべての断食期間において、男性のが減少が大きくなりました。

体重変化

体重は断食期間の長さとともに減少しました。

断食による体重変化
断食期間 体重変化 断食前 断食後
5日 -3.2kg 79.3kg 76.1kg
10日 -4.4kg 82.7kg 78.3kg
15日 -6.1kg 86.6kg 80.5kg
20日 -7.1kg 96.7kg 89.6kg
全体 -4.1kg 82.0kg 77.9kg

BMI変化

BMIは断食期間の長さとともに減少しました。

断食によるBMI変化(kg/m²)
断食期間 BMI変化 断食前 断食後
5日 -1.1 27.2 26.1
10日 -1.5 28.5 27.0
15日 -2.2 29.7 27.5
20日 -2.6 33.6 31.0
全体 -1.5 28.2 26.7

ウエスト変化

ウエストは断食期間の長さとともに減少しました。

断食によるウエスト変化
断食期間 ウエスト変化 断食前 断食後
5日 -4.9cm 91.3cm 86.4cm
10日 -6.2cm 94.8cm 88.6cm
15日 -8.9cm 98.3cm 89.4cm
20日 -9.4cm 106.3cm 96.9cm
全体 -6.0cm 94.0cm 88.0cm

血圧変化

収縮期血圧(最高血圧)と拡張期血圧(最低血圧)はともに、ベースライン値より断食で低下しました。

男女による差はなく、断食した期間が長いほど低下しました

収縮期血圧(最高血圧)
断食による収縮期血圧変化 (mmHg)
断食期間 血圧変化 断食前 断食後
5日 -7.0 129.0 122.0
10日 -11.1 130.3 119.2
15日 -16.1 136.0 119.9
20日 -16.2 134.2 118.0
全体 -10.0 130.6 120.6
拡張期血圧(最低血圧)
断食による拡張期血圧変化 (mmHg)
断食期間 血圧変化 断食前 断食後
5日 -4.0 82.5 78.5
10日 -6.2 83.2 77.0
15日 -7.7 84.7 77.0
20日 -8.0 86.3 78.3
全体 -5.5 83.2 77.7

ケトン体の変化

ケトーシス(ケトン症)を反映するアセト酢酸(ケトン体)は、ベースラインから断食を終えるまで、有意に増加しました。

ケトン体のスコアが高いことは、それだけ体脂肪を燃焼して、エネルギーとして利用していると想定されます。

5日後にプラトー値(横ばいの状態)に達したことを示唆しています。

男性は女性よりもアセト酢酸(ケトン体)のスコアが高かくなりました。

※ケトン体とは、アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸(β-ヒドロキシ酪酸)、アセトンの総称

断食によるアセト酢酸変化 (mg/dL)
断食期間 アセト酢酸
変化
断食前 断食後
5日 +48.2 2.6 50.8
10日 +47.0 2.6 49.6
15日 +47.2 2.3 49.5
20日 +49.2 2.6 51.8
全体 +47.7 2.5 50.2

幸福度(well-being)の変化

感情的幸福度(emotional well-being)と身体的幸福度(physical well-being)が、断食により高まりました。

幸福度を評価するために、参加者は毎日、0(非常に悪い)~10(最高)までの数値評価尺度で、感情的幸福度と身体的幸福度を自己申告しました。

感情的幸福度と身体的幸福度のベースライン値は、断食期間が長いグループほど低い傾向にありました。

より長い断食期間を選択した参加者は、より短い期間の断食期間を選択した参加者よりも、ベースライン時の感情的および身体的自己評価が低いことを示唆しています。

男女の差はなく、断食により感情的幸福度と身体的幸福度は高まり、滞在終了時にすべての断食期間で同様の感情的幸福度と身体的幸福度に達しました。

絶食療法による症状と副作用

Buchinger絶食療法の断食プログラムの安全性は、自己申告および観察された軽度の症状をすべて、毎日収集することによって評価しました。

記入された質問票に回答した1311人の参加者のうち、0.35%が最も頻度の低い軽度の症状である筋肉のけいれん、および14.94%が最も頻度の高い軽度の症状である睡眠障害を報告しました。

筋肉痛、睡眠障害、頭痛、空腹などの軽い症状の発生率は、主に断食の最初の日に発生しました。

参加者のうち質問票に回答した1311人は、下記の軽度の症状があるかどうかをYES、NO(はい、いいえ)で回答しました。

  • 頭痛 headache
    断食を始める前(360人)と、最初の日(432人)に症状の報告が多く、日に日に減りました。
  • 背中の痛み・腰痛 back pain
    断食を始める前(134人)から増えて、断食2日目(184人)、3日目(185人)に最も多く症状が報告されました。
  • かすみ目 blurred vision
    断食を始める前(16人)から増えて、断食5日目(59人)に最も多く症状が報告されました。
  • めまい vertigo
    断食を始める前(30人)から増えて、断食2日目(84人)に最も多く症状が報告されました。
  • 吐き気 nausea
    断食を始める前(44人)と、最初の日(61人)に症状の報告が多く、日に日に減りました。
  • 動悸 palpitation
    断食を始める前(13人)から増えて、断食3日目(29人)に最も多く症状が報告されました。
  • 睡眠障害 sleep disturbance
    断食を始める前(185人)から増えて、断食3日目(318人)、4日目(319人)に最も多く症状が報告されました。
  • 冷え性 sensitivity to cold
    断食を始める前(79人)と、最初の日(133人)に症状の報告が多く、日に日に減りました。
  • おなかのハリ(腹部膨満感) abdominal bloating
    断食を始める前(88人)から6日目(85人)までは同じ数程の症状が報告され、6日目(69人)から日に日に減りました。
  • 下痢 diarrhea
    断食を始める前(34人)から増えて、最初の日(102人)に症状の報告が最も多く、日に日に減りました。
  • 疲労 fatigue
    断食を始める前(333人)と、最初の日(402人)に症状の報告が多く、日に日に減りました。
  • 筋肉痛 muscle pain
    断食を始める前(118人)と、最初の日(136人)に症状の報告が多く、日に日に減りました。
  • こむら返り cramp in the calf
    断食を始める前(22人)と、最初の日(29人)に症状の報告が多く、日ごとに徐々に減りました。
  • レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群) restless legs
    断食を始める前(12人)から増えて、断食4日目(35人)、5日目(34人)に最も多く症状が報告されました。
  • 口臭 bad breath
    断食を始める前(26人)から増えて、断食3日目(113人)、4日目(111人)に最も多く症状が報告されました。
  • ドライマウス(口が渇く) dry mouth
    断食を始める前(78人)から増えて、断食2日目(160人)から5日目(150人)まで症状の報告が多く、日に日に減りました。
  • 皮膚発疹・アトピー性皮膚炎 skin rash
    断食を始める前(21人)から増えて、断食3日目(56人)、5日目(55人)に最も多く症状が報告されました。
  • 空腹感 hunger
    断食を始める前(103人)から増えて、断食2日目(170人)に最も多く症状が報告されました。
  • 渇望 cravings
    断食を始める前(47人)から増えて、断食2日目(76人)に最も多く症状が報告されました。

死亡者や恒久的な悪影響はありませんでした。

参加者の入院について

2人の参加者が一時的に入院しました。

1番目の症例は、冠動脈疾患が判明している75歳の男性です。

断食9日目に非ST上昇型心筋梗塞を発症し、簡単な治療(経皮的冠動脈インターベンション)を受けました。

入院3日後に、Buchinger Wilhelmiクリニック(BWC)に戻りました。

2番目の症例は、絶食4日目にめまいと下痢を伴う嘔吐が原因で1日入院した67歳の女性でした。

BWCに戻った後、彼女は800kcal/日の食事療法を受けました。

他の有害事象は一時的なものであり、治療による断食の中断にはつながりませんでした。

心不整脈は低悪性度、一過性であり、断食を止めることなく複雑に治療することができました。

一時的な低血糖症にも同じことが当てはまります。

高尿酸血症および頻繁な痛風発作のために、痛風・高尿酸血症治療薬(アロプリノール)で断食前に治療を受けた患者において、1症例の痛風発作がありました。

対症療法で治療することができ、断食を続けました。

健康上の不満

健康状態について自己申告した1311人の参加者のうち、404人の参加者が断食前に健康上の大きな不満があると述べました。

404人の参加者の84.4%において、主な健康上の不満は大いに改善していました。

8.7%はそれが変わらなかったと報告し、そして6.9%が悪化したと報告しました。

血中の脂質と血糖

いくつかの血液パラメータを分析することによって、Buchinger絶食療法の断食プログラムが代謝に及ぼす影響を評価しました。

中性脂肪

ベースライン時、男性のトリグリセライド(中性脂肪)値は、女性よりも高い値でした。

断食によりトリグリセライド(中性脂肪)レベルは平均0.44mmol/L(17.0mg/dL)減少しました。

断食の終了時にトリグリセライド(中性脂肪)レベルは、全ての断食期間において同様であり、フロア効果(低い値に集まる)を示唆しました。

コレステロール

総コレステロールは断食で減少し、より長い断食期間になるほど減少が大きくなりました。

男女による断食の総コレステロールの変化に、違いはありませんでした。

HDLコレステロール(善玉コレステロール)のベースライン値は女性で高く、断食により減少しました。

この減少は、断食期間が長いほど大きく、男性よりも女性の方が大きくなりました。

LDLコレステロール(悪玉コレステロール)も、HDLコレステロールと同様に、断食期間が長いほど大きく減少しました。

LDL/HDL コレステロール比は断食の影響を受けませんでした。

血糖値

グルコースのベースライン値は、女性と比較して男性が高い値でした。

グルコース値は、断食期間の長さに差がなく、有意に減少し、平均4.7mmol/L(84.6mg/dl)で安定しました。

糖化ヘモグロビン

断食によって、糖化ヘモグロビン(HbA1c)の有意な減少を示しました。

血球数

白血球は、すべての断食期間で有意に減少し、より長い断食期間になるほど減少が大きくなりました。

赤血球は僅かに増加を示し、全ての断食期間で同様の値で推移しました。

ヘモグロビンもまた、断食期間とは無関係に僅かに増加を示しました。

ヘマトクリットは断食の影響を受けませんでした。

血小板は、断食により有意な減少を示しました。

肝機能

肝臓が健全に働いているかどうかは、GOT(AST)およびGPT(ALT)レベルでわかります。

GOT(AST)とGPT(ALT)は、どちらも取り入れた栄養素をアミノ酸に変換し、身体を動かすエネルギーに変える働きにかかわる酵素です。

GOTは多くの臓器に、GPTは肝臓に多い酵素です。

断食期間に関わらず、断食の間にGOT、GPTレベルは上昇しました。

ベースライン時および終了時の値は、平均で
GOT:0.4→0.6(μkat/L)
GPT:0.5→0.7(μkat/L)
の範囲で増加しました。
標準範囲内(<0.8μkat/L)でした。

炎症性バイオマーカー

炎症性バイオマーカーCRPとESRを分析しました。

ベースライン時と終了時の平均値は、すべて正常範囲内(<5.0mg/L)でした。

断食の間にCRPは、有意に上昇しました。

CRPは、感染や何らかの組織損傷・傷害に対する免疫反応が起こると、肝臓での合成が促進し血漿濃度が上昇します。

断食の間にESRは有意に減少し、断食期間が長いほどより減少しました。

赤血球沈降速度(ESR)は、「血沈」または「赤沈」ともよばれ、1時間に赤血球がどれだけ沈降するかで、血液成分の異常や、炎症の程度を評価します。

腎機能と尿酸

血中尿酸の有意な増加が観察されました。

338.1 → 495.2 (μmol/L)

最高の尿酸値は15日間断食で測定されました。

尿素濃度はすべての断食期間で有意に減少しました。減少は断食期間が長いほど、より大きくなりました。

電解質

断食前および断食後の値は、すべて正常範囲内でした。

ナトリウム

ナトリウム濃度は有意な減少を示しました。

平均 140.1 → 138.7(mmol/L)

カルシウム

カルシウムレベルは有意に上昇しました。

断食期間よる影響はありませんでした。

カリウム

カリウムは断食で有意な減少を示しました。

マグネシウム

マグネシウムレベルは安定したままでした。

断食(ファスティング)の安全性は高い

18歳~99歳まで幅広い年齢の1422人の男女が、Buchinger絶食療法のプログラムに従って、4~21日間の断食をおこなった結果から、この断食が安全で、耐えられないものではないことを示しました。

さらに、感情的な幸福感と身体的な幸福感を高めて、心血管系の危険因子を改善させ、主観的な健康上の不満の改善にもつながりました。

断食によりウエストと体重が減少し、断食期間が長いほど減少は大きくなりました。

肥満者における体重減少は、多くの研究で気分の改善と関連しています。

血圧は有意な減少を示し、平均値は下限値の範囲を下回らず、下限効果を示しました。

大半の参加者は空腹感を感じることなく、それどころか、主観的に楽しいものとして経験されました。

結論として、今回の研究は4~21日間のBuchinger絶食療法による断食(ファスティング)の安全性、ならびに健康と幸福に対するその有益な効果を示しています。

ただしBuchinger絶食療法ではない断食(ファスティング)については、調査結果は適用できませんので注意してください。

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