日ごろ楽しんでいる運動の種類によって、平均余命に大きな差があるという驚きの研究報告が出ました。
運動の種目ごとに平均余命を分析したところ、テニスをしている人は、運動していない人に比べ、9.7年も平均余命が長かったのです。
つまりテニスをすることで10年近く長生きする可能性があるという結果です。
運動することが重要に思えますが、より長い時間を運動に費やしていたスポーツジムでのエクササイズは、運動していない人に比べ、平均余命が1.5年しか延びませんでした。
テニスをすることは、スポーツジムでエクササイズすることに比べて約6倍も平均余命が長くなり、単純に運動すれば、それだけ長生きできるとは言えない結果となっています。
スポーツと寿命を25年にわたり調査
デンマークと米国の研究者からなるチームが、デンマークで健康な成人男女8577人を約25年間追跡した調査結果を、2018年に発表しました。
対象:
1975年からおこなわれている、デンマーク・コペンハーゲン市在住の一般市民を対象とした大規模な疫学調査(コホート研究)「コペンハーゲン市心血管研究(CCHS)」。
この健康な参加者2万人のうち、91年10月~94年9月に登録した男女から、余暇にスポーツを楽しんでいる8577人の25年分のデータを対象として抽出。スポーツと寿命との関連を解析しました。
調査:
平均余命への影響を明らかにするのに十分な期間といえる約25年間の行動について、調査をおこないました。
この調査では全被験者が健康診断を受け、デンマークで人気の8つのスポーツをおこなう頻度と、ライフスタイルについてのアンケートに回答しています。
その中で死亡した人がいるか、いつ死亡したかを調べるため、国の死亡記録と照合。そして、彼らの運動と寿命を比較しました。
調査したスポーツ
- スポーツジムでの運動・エクササイズ
(トレッドミル、クロストレーナー、ウエイトなど器具を使った有酸素運動やウエートトレーニング)
- 徒手体操
(自重による筋トレや体操)
- ジョギング
- スイミング(水泳)
- サイクリング
- サッカー
- テニス
- バドミントン
[調査結果] スポーツ種目による延命効果
調査の結果、「運動不足の人たち」と比較した平均寿命が判明しました。
スポーツ種目と寿命を延ばす効果
スポーツ種目 |
延命効果 |
テニス |
9.7年 |
バドミントン |
6.2年 |
サッカー |
4.7年 |
サイクリング |
3.7年 |
水泳 |
3.4年 |
ジョギング |
3.2年 |
徒手体操 |
3.1年 |
スポーツジムでの運動 |
1.5年 |
これらの運動と寿命の関係性は、被験者の教育、社会経済的地位、年齢を調整しても変わりませんでした。
長生きの方法はテニスをすること
テニスをしていた人の平均余命は、運動不足の生活をしていた場合より9.7年長くなっていました。
長生きするための最善の方法は、テニスをすることかもしれません。日常生活に取り入れることで、平均余命を10年近く延ばす可能性があります。
運動する時間の長さが関係しない!?
意外なことに、運動する時間の長さと、効果の大きさの間に相関関係がみられませんでした。
8種目中、運動に最も長い時間を費やしていた「スポーツジムでの運動・エクササイズ」の延命効果は、1.5年でした。
8種目中で最も効果が低かったのです。時間対効果も最低となります。
上位は複数人でおこなうスポーツ
テニスとバドミントン、サッカーの効果が大きかった理由の一つとして考えられるのは、これらは調査対象に含めたその他のスポーツとは異なり、2人以上でおこなうものだということです。
複数でおこなうスポーツには、社会的交流を伴います。
「定期的にスポーツを楽しむグループに属していることは、支え合い、信頼し合い、共感し合う人たちがいるという気持ちを強める。
これらは幸福感につながり、長期的な健康維持に好影響をもたらすものだ」
と研究チームは考察しています。
高強度のトレーニングが影響
また、テニスやバドミントンのプレーに伴う運動のタイプが影響している可能性もあるといいます。
「ゆっくり安定的な動作をするスポーツよりも、短時間に高強度の運動をおこなうスポーツの方が、さらに効果的である」
とも考えられているためです。
テニスやバドミントンには、高強度のパフォーマンスと不完全休息を交互にとる"高強度インターバルトレーニング(HIIT)"の要素があります。
HIITで最大酸素摂取量を上げ、全身の持久力を鍛えたことが健康長寿につながったと考えられます。
あるスポーツが寿命を長くする理由
研究の共同執筆者で、アメリカ・ミズーリ州カンザスシティにあるセントルークス病院中部アメリカ心臓研究所の予防心臓病学責任者ジェームズ・オキーフは述べています。
「一部のスポーツが、ほかのスポーツよりもなぜ、どのようにして寿命を延ばすのかは、この種の観察研究から明らかにすることは不可能です。
体にかかる負荷の違いが関係している可能性がありますが、研究では、サイクリングにしろ、バドミントンにしろ、かなり激しい運動はほぼ含まれていません。
収入やその他のライフスタイルの影響も考えられます。
研究チームは、社会経済的な要因について明らかにしようとしました。
しかしテニスをするだけの十分なお金と余暇の時間を持っている人が長生きをするのは、テニスが理由ではなく、十分なお金と余暇の時間があることが理由である可能性もあります」
社会的な側面が寿命を長くする
オキーフは、それでもラケットを使用するスポーツや、その他のチームスポーツの社会的な側面が、寿命を長くする主な理由だと考えています。
「社会的なサポートがストレスを緩和させることは別の調査でもわかっています。
パートナーやチームを必要とするスポーツをするときのように、他者と一緒になって物事をおこなったり、触れ合ったりすることには、特別な心理的かつ生理学的な効果があるのかもしれません。
その可能性については、異なるタイプの運動を直接比較する無作為抽出実験などによる検証が必要です。
だが今のところは、1人で走ったりサイクリングをしたりしている人は、一緒にできるグループやパートナーを見つけることを検討するといい。
健康のためには、心拍数を上げることは重要です。
しかし、他者とつながることも重要なようです」
とオキーフは述べました。
イギリスの調査でも
最も長生きできるスポーツはテニス!
イギリスでの約8万人を平均で9年間追跡した大規模調査から、最も長生きできるスポーツを、英紙「デイリー・エクスプレス」(2016年11月30日付)で発表しました。
研究をまとめたのは、シドニー大学(オーストラリア)のエマニュエル・スタマタキス教授らのチーム。
研究は英オックスフォード大学、エジンバラ大学などと共同でおこなわれました。
対象:
普段からスポーツをおこなっている30歳以上の8万306人の男女(調査開始時の平均年齢52歳)
調査:
1994~2008年にイギリスでおこなわれた11件の全国的な健康調査をもとに、6つのスポーツ分野と死亡リスクとの関係を調べました。
普段からおこなっているスポーツと死亡リスクとの関連を分析しました。
6つのスポーツ分野:
- テニス、スカッシュ、バドミントンなどのラケットスポーツ
- ランニング、ジョギングなどの走るスポーツ
- サイクリング(自転車)
- スイミング(水泳)
- エアロビクス
- サッカー、ラグビーなどのフットボール
参加者には、
・過去4週間以内にどのスポーツでどれだけの身体活動をしたか
・息を弾ませ汗をかくほど十分な運動をしたかどうか
など尋ねました。
参加者は平均で9年間追跡調査され、期間中に8790人がさまざまな病気や事故などで死亡、1909人が心筋梗塞や脳卒中などの心臓血管疾患で死亡しました。
普段からおこなっているスポーツによる死亡リスクを、運動をしない人(息をはずませ汗をかくほどの運動をしない人)と比較しました。
ラケットスポーツすると死亡リスクが47%も下がる
調査の結果、運動をしない人に比べ、全死亡リスクが低かったのは次の順番でした。
スポーツ分野と全死亡リスク
スポーツ分野 |
全死亡リスク |
ラケットスポーツ |
47%減 |
スイミング |
28%減 |
エアロビクス |
27%減 |
サイクリング |
15%減 |
死亡リスクの低いスポーツランキング第1位は、テニスなどのラケットスポーツ。
運動しない人より死亡リスクが47%も低いことがわかりました。
しかし驚いたことに、ランニングやサッカーは運動をしていない人に比べ、全死亡リスクを下げるものではなかったのです。
心臓血管疾患の死亡リスクを減らすには
運動をしない人に比べ、心臓血管疾患の死亡リスクが低かったのは次の順番でした。
心臓血管疾患の死亡リスク
スポーツ分野 |
心臓血管疾患 死亡リスク |
ラケットスポーツ |
56%減 |
スイミング |
41%減 |
エアロビクス |
36%減 |
心臓血管疾患の死亡リスクの低いスポーツランキング第1位も、テニスなどのラケットスポーツ。
運動しない人より死亡リスクが56%も低いことがわかりました。
スイミングとエアロビクスもそれぞれ41%、36%も低くなり、死亡リスクを下げるのに効果的であることがわかります。
しかし、心臓病や脳卒中の死亡リスクでも、サイクリング、ランニング、サッカー、ラグビーはいずれも統計学的に有意な関係はなかったと驚く結果となりました。
なぜラケットスポーツが死亡リスクを減らすのか
テニスなどのラケットスポーツをするとなぜ長生きにつながるのでしょうか?
死亡リスクが低い理由を考察しました。
1. 脳が活性化
テニスなどのラケットスポーツは1対1もしくは2対2で絶え間なく打ち合うスポーツ。
常に相手やボールの動きなどの状況判断をするため、瞬時に対応方法を考えることにより脳が鍛えられるそうです。
2002年、カナダのトロント大学がおこなった調査で、ベテランテニスプレイヤーの試合前と試合後の脳の動きを測定しました。
すると、テニスをおこなった後の脳は、ストレスに対応する部分の動きがアップしていることがわかりました。
脳が活性化されたり、ラケットスポーツすることでストレスに強くなります。免疫力が上がることで病気をしにくくなり、長寿につながる可能性があります。
2. 無酸素運動+有酸素運動
ラケットスポーツは無酸素運動と有酸素運動を交互におこなっています。
これにより全身の様々な機能をバランスよく鍛えることができます。
無酸素運動は、瞬発的な動きにより筋力を強化するもので、テニスでいうと、ボールを思い切り打つ瞬間や、ボールを追いダッシュする瞬間などを指します。
一方、有酸素運動は、心肺機能を強化するもので、相手の返球を待っている間は有酸素運動にあたります。
3. 握力を鍛えられる
テニスといえばラケットでボールを打つスポーツ!
ラケットスポーツは、ラケットを握り続けることによって握力が鍛えられます。
握力と長寿、一見無関係のように思えますが、カナダのマックスマスター大学が40歳~70歳の男女14万人を4年間かけて"握力と死亡のリスク"の関係を調査しました。
その結果、握力が平均より5キロ低い人は死亡リスクが16%高いことがわかりました。
運動によって死亡リスクを下げない
ランニングやサッカーは、運動をしていない人に比べて、全死亡リスクを下げませんでした。
さらに、心臓病や脳卒中の死亡リスクでも、ランニング、サッカー、ラグビー、サイクリングは、運動をしていない人に比べて、リスクを下げない結果となりました。
「ランニングは健康に良い」という認識を持っている人はかなり多いと思いますが、意外にもランニングは健康に効果なしといえる結果となりました。
2つの調査研究からわかること
イギリスで8万306人を平均9年間追跡調査した研究と、デンマークで8577人の約25年間追跡調査した研究から
- テニス、バドミントンなどのラケットスポーツをしている人が長生きであること
- スポーツにより効果が全く異なること(場合によっては、ほとんど効果がないこと)
- 運動に費やす時間と長生きは関係しないこと
がわかります。
スポーツをすることが健康に良いというのは間違いではないですが、延命効果はスポーツ分野・社会的な側面により、全く異なります。
さらなる研究で、運動による長生きの要因が明かされるかもしれませんが、現時点では最も長生きするには、テニスをすることですね。