1500人を80年間追跡調査 米国研究資料「長寿と性格」による研究結果は
性格を変えることで、寿命が変わる
という、それはあらゆる常識を覆すものでした。
長期間にわたって多くの人間を追跡調査し、その人達の性格や人生を分析した本『The Longevity Project』(直訳:長寿計画)に書かれています。
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1500人を80年間追跡調査 米国研究資料「長寿と性格」による研究結果は
性格を変えることで、寿命が変わる
という、それはあらゆる常識を覆すものでした。
長期間にわたって多くの人間を追跡調査し、その人達の性格や人生を分析した本『The Longevity Project』(直訳:長寿計画)に書かれています。
人が長く健康で生きられること(健康寿命)には、
「個人の性格」や「社会生活」などが
密接に関係しているという研究結果を示しているのです。
調査が始まったのは1921年。スタンフォード大学のルイス・ターマン教授が当時、10歳前後の児童1528人を対象に性格を分析。
その後、どのような人生を歩んでいくのか、
5~10年おきにインタビューを行う形式で研究を開始しました。
ターマン教授の死後、カリフォルニア大学リバーサイド校特別教授のハワード・S・フリードマン博士が、残された資料を基に、対象者の追跡調査の継続をスタート。
足掛け80年間にわたる研究の結果を、一般読者向けの平易な医学ノンフィクションとして発表しました。
『The Longevity Project』(直訳:長寿計画)
「長寿の原因」だとされてきた次の幾つかの常識を、調査の結果から、著者であるフリードマン教授はハッキリと否定しています。
これらは、どれも、長く健康でいるための大切な要素と考えられてきたものばかり。
ところが長寿者の中に、いわゆる健康オタクはいませんでした。
それ以上に、70歳を超えて健在の高齢者には、ある共通する性格があることがわかったのです。
この本で判明した「長寿向きの性格」とはどんなものなのか。
そのキーワードとなるのが、「conscientious」という言葉です。
日本語に直すと「良心的」「慎重」「丁寧」「念入り」「粘り強い」「計画性がある」といった意味です。
フリードマン教授は、医学界のある常識を覆すものと主張しています。
健康で長生きする人ほど、いわゆる「真面目」な性格を備えているといいます。
『従来、陽気で快活でポジティブな人は長生きをするケースが多く、また、声を出して笑うことは健康にいいと考えられてきました。
だが、私たちの調査の結果、周囲に陽気と思われている人は、むしろ短命だということがわかった。
たとえば、陽気さが売りのコメディアンは、一般の人より短命だというデータがある。
それは彼らが
"辛い経験を押し隠すために、あえて明るくふるまったり、不健康な生活を送っている人が多い"
という背景があるからです。
明るく陽気な性格は、不健康なライフスタイルにつながりやすく、健康リスクという点からみると、高血圧や高コレステロール並みに危険だといえるのです』
フリードマン教授によれば、調査対象となった1500人の3分の2が70歳以上まで生き、そのうち24人が、90歳以上となる今も健康に日常生活を送っています。
そして、70歳以上生きた対象者の幼少期における性格診断のデータを紐解くと、
と評価された人より、
など、いわゆる「優等生」の印象をもたれた人間のほうが、圧倒的に多かったのです。
2001年の段階で、男性の70%、女性の51%が亡くなっています。
故人の中でもっとも多かったのが「conscientious」指数の低い、いわゆる「真面目さに欠ける人」でした。
彼らに共通するのが、「陽気」で「楽観的」との評価を幼少期に受けているということです。
フリードマン教授は、楽観主義は危険だと言います。
『いわゆる楽観主義の人間は、「まあ大丈夫だろう」という慎重さに欠ける判断をあらゆる場面で下している。
その積み重ねが、健康を害する生活習慣につながったり、不注意の交通事故を起こしたりするケースも見られた。
幼少期の性格診断において「社交的な人気者」と教師らから評価された人の中には、大人になってから、人付き合いの手助けとなるアルコールやタバコが過剰摂取気味になり、早死ににつながった事例も多い』
楽観主義とは、「いい加減」とか「無頓着」という意味で、ポジテイブ思考とは別のものと考えなくてはなりません。
労働と寿命の関係についても書かれています。
仕事はあらゆる人にとって、日常生活における時間の大半を占めるもので、業務上のストレスは、健康に大きく影響を及ぼすと言われています。
仕事で神経をすり減らすより、田舎でのんびりした老後を送った方が長生きできるという考えの人は、決して少数ではないだろう。
『実は、「conscientious」以上に、長寿と密接に関係していると思われるのが、仕事上の成功なのです。
社会的な評価を得続けている人は、真面目な人よりずっと長生きしていることがわかった』
本書では、対象者の一人であり、後にハリウッドの有名映画監督となったエドワード・ドミトリクの生きざまを取り上げています。
子供の頃、母親を亡くしたドミトリクは、10代で家を出奔し各地を転々とします。
散々に辛酸をなめたが、持ち前の「辛抱強さ」でじわじわとキャリアを積み重ね、ついに映画監督にまで上り詰めました。
しかし1947年、共産党支持者として連邦刑務所に収監され、その後も離婚、失業と不幸は続きました。
それでも、それから監督業に精を出し、代表作を次々と生み出し、大作を撮り続け、90歳まで生きました。
ドミトリクが受けたストレスがいかに大きかったかは、想像するに難くない。
しかしストレスを克服すれば、それが長生きへのプラス材料になりえます。
『私たちの調査でも、悲観的すぎる人間は短命だという結果が出ている。過度のストレスが体に悪いことも事実です。
たとえば、調査対象者のなかには、幼少期、教師に叱られただけで「すべて私のせいだ」と思い込んでしまう少女がいました。
そうした思考の人は、その多くが人生の上でアクシデントを抱え、キャリアにおいて成功をおさめることができなかった。
しかし、ドミトリクはそうしたストレスより、仕事で評価されることを強く望んだ。
言い換えるなら、彼は常に野心や向上心を持ち続け、大変なストレスを感じるような場面でも、決して困難から逃げなかった。
だからこそ、彼は長生きすることができたのです」
『今までは、生きていく上で「他者から愛される感覚」が必要だと言われていました。
それが、今回の結果では、愛されている実感は、寿命に直接影響することがなかった。
むしろ知人、友人が多く、定期的に会う相手がたくさんいる人ほど、つまり社交ネットワークが大きい人ほど、長生きできるということがわかったんです』
と、フリードマン教授は主張しています。
「愛されている」ことを実感できる深いつながりより、単純に人と接する機会が多い密な「社会とのつながり」が重要だと言えそうです。
男性の長生きの順
対象者の結婚生活に目を向けると、男女において寿命に与える影響が全く違うことが明らかにされています。
『結婚という点で考えるなら、もっとも長命だったのは、一人の奥さんと生涯連れ添った男性で、その多くが70歳以上まで生き、奥さんに看取られて亡くなっています』
この調査で次に長生きするのが意外にも生涯独身の男性。
最も短命なのは離婚後、再婚をしなかった男性で、その65%以上が70歳に達する前に亡くなってしまっています。
そして妻と死別した男性は、そのほとんどが数年後に息絶えました。
一方、女性に関しては男性とはまったく違う興味深い結果が出ました。
夫と離婚しても、あるいは夫に先立たれても、それは彼女たちの寿命にほとんど影響を与えません。
彼女たちは総じて長寿であり、むしろ夫がいなくなってからの方が生き生きと健康になったケースが目立つ。
概して結婚生活の充実が男性にとって重要であるのに対し、女性には大きな影響がないのです。
フリードマン教授が解説しています。
『仕事を持つ男にとって、毎日は戦いの連続ですから、結婚生活の幸せが支えになる。
もともと一人の独身男性はいいのですが、愛する妻に先立たれると多くの旦那さんがガックリきて生きる意欲を失ってしまう。
では女性はどうかというと、重要なのは何とオーガズムの回数なんです。
夫婦間のセックスで、絶頂に達する頻度がより多い人ほど長寿だったのです。
理由はまだはっきりしていませんが、興味深いデータです』