腸内には、約3万種類、100兆~1000兆個という膨大な数の細菌が生息していて、腸内細菌の重量の1.5kg~2kgになります。
人の細胞の数は37兆個なので、腸内だけで人の細胞の数の3倍~30倍もの細菌が生息しています。
腸の内面を広げるとテニスコート1面分にも相当し、さながら花畑のように細菌類が生息していることから
「腸内フローラ」(フローラ=花畑)
または
「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」(叢=草むら)
と呼ばれています。
「腸は第2の脳」と呼ばれるように、この腸内細菌叢が体だけではなく精神にも影響することがわかっています。
また腸内細菌は免疫に大きく影響を与えます。
「便秘は万病の元」と言われ、
便秘が腸内細菌叢に、
腸内細菌叢が便秘に、
相互に影響して、悪化すると心身の病気の原因となります。
これはつまり理想的な腸内細菌叢になれば
病気になりにくい体や
より幸せを感じることができます。
理想的な腸内細菌叢を作るにはどうしたらよいでしょうか?
腸内細菌の働き
腸内細菌は体にとって様々な働きをしています。
- 病原体の侵入を防ぎ排除する
- 食物繊維を消化し短鎖脂肪酸を産生する
- ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンK、葉酸、パントテン酸、ビオチンなどのビタミン類の生成をする
- ドーパミンやセロトニンを合成する
- 腸内細菌と腸粘膜細胞とで免疫力の約70%を作りだしている
美腸は美肌に
腸と肌は密接な関係があり、腸内環境が悪いと吹き出物ができやすいなど肌あれにつながります。
腸がキレイな人は、肌もキレイ!
腸にたまった老廃物をきちんと排出することで、肌によい栄養をたくさん吸収することができます。
腸内環境を整えることは、お肌の健康維持にも効果的です。
美腸は睡眠にもいい
腸内フローラは体内時計と連動しています。夜、眠くなるのはメラトニンというホルモンの働きです。
メラトニンが脈拍・体温・血圧などを低下させることで、睡眠の準備ができたと体が認識し、睡眠に向かわせる作用があります。
メラトニンは脳内で分泌されるホルモンですが、材料となる前駆体は腸で作られます。
腸内フローラがバランスよく存在しないと、メラトニンの脳内分泌量が減少することになるので、腸内環境を整えることは、睡眠の質の良くするのに効果的です。
腸内細菌の主要な菌
腸内細菌の中で、消化吸収の補助や免疫刺激など、宿主の健康維持に貢献するものを「善玉菌」、体に害を及ぼすものを「悪玉菌」と分類されています。
善玉菌や悪玉菌に分類されず、他の菌の影響を受けて作用が変化する菌は、「日和見菌(ひよりみきん)」と呼ばれています。
善玉菌
ビフィズス菌に代表されるビフィドバクテリウム属 (Bifidobacterium) や、乳酸桿菌と呼ばれるラクトバシラス属 (Lactobacillus) の細菌などです。
多くは乳酸や酪酸など有機酸を作ります。
ビフィズス菌は、偏性嫌気性菌(酸素に弱い菌)のため、ほぼ無酸素状態である大腸に存在します。
悪玉菌(有害菌)
- ウェルシュ菌
- ブドウ球菌
- 黄色ブドウ球菌
- 大腸菌(有毒株)
- バクテロイデス菌(有毒株)
ウェルシュ菌に代表されるクロストリジウム属 (Clostridium) や大腸菌(病原性)などで、多くは悪臭のもととなるいわゆる腐敗物質を産生するものを指します。
悪玉菌は、二次胆汁酸やニトロソアミンといった発がん性のある物質を作ります。
偽膜性大腸炎の原因となるクロストリジウム属ディフィシルや病原性を示すバクテロイデス属フラギリスなどもあげられます。
悪玉菌の多くは、有機酸の多い環境では生育しにくくなります。
日和見菌
- バクテロイデス属
- 大腸菌 (無毒株)
- レンサ球菌
- 腸球菌
プロテオバクテリア門腸内細菌科大腸菌(非病原性)、全体の4割を占めるバクテロイデス門バクテロイデス属(非病原性)、フィルミクテス門のユーバクテリウム属、ルミノコッカス属、クロストリジウム属(非病原性)などがあげられます。
日和見菌の大半は未知なる部分が多い菌です。
善玉菌が優位な状態ではおとなしいのですが、悪玉菌が優位な状態であったり、体が弱ったりすると、日和見菌が腸内で悪い働きをします。
善玉菌 > 悪玉菌 = 日和見菌はおとなしい
善玉菌 < 悪玉菌 = 日和見菌は悪い働きをする
腸内環境が悪化したことで起こる感染症は日和見感染と呼ばれ、代表的なものでカンジダ症があります。
カンジダ症
元来はヒトの体表や消化管、それに女性の膣粘膜に、カンジダ・アルビカンスという真菌が普通に生息しています。
真菌とはカビのことです。
多くの場合は特に何の影響も与えないのですが、腸内環境が崩れ、カビが増殖してしまうと、体に異変が表れます。
- 腸の炎症を引き起こす
- さまざまな有害物質を発生させる
- 低血糖を引き起こす
- 免疫トラブルを起こす
- 不眠や自律神経の乱れなど、体の悪循環を引き起こす
カンジダ菌感染は、
- 抗生剤の服用を何度も繰り返した人
- 甘いものが好きで頻繁に食べる人
- 食事制限によるダイエットを繰り返している人
- 重病で体力や免疫力が低下している人
- 避妊用のピルを常用している人
に多く見られます。
腸内細菌のバランス
腸内細菌の善玉菌・悪玉菌・日和見菌のバランスによっては、感染症や下痢症、便秘などの原因となります。
がん、心臓病、アレルギー、認知症のような病気との関連性も高いと指摘されています。
健康な成人の平均的な腸内細菌は、善玉菌が全体の2割、悪玉菌が全体の1割、日和見菌は全体の7割を占めています。
善玉菌・悪玉菌・日和見菌の割合は、体調や年齢、食事を中心とした生活習慣、ストレス、便秘などによって変わってきます。
細菌を殺す抗生物質
抗生物質は、体に害となる菌だけではなく、善玉菌も始末してしまいます。
抗生物質は「細菌」を殺せても「真菌」は殺せません。
抗生物質の常用・乱用により腸内の細菌が激減した結果、真菌(カビ)が増殖してしまい、日和見感染のカンジダ症となる可能性があります。
腸内細菌による発酵と腐敗
発酵というのは、微生物の活動ですが、人間に良い働きをする菌なら発酵、悪い働きをする病原菌や腐敗菌の場合は腐敗といいます。
善玉菌も悪玉菌も、体内に取り入れた食物を分解しますが、善玉菌は主に「糖類」を、悪玉菌は「たんぱく質」を分解します。
善玉菌が糖類を分解する作用は「発酵」で、腸内を健全な弱酸性に保ち、悪玉菌の繁殖を抑制します。
一方、悪玉菌による分解は「腐敗」で、腐敗臭のするガスを発生させ、発がん物質を作り出すこともあります。
免疫細胞と免疫スイッチ
腸で作られる免疫細胞が増えると、病気になりにくいことがわかっています。
ヨーグルトや納豆、味噌、甘酒などの発酵食品が体に入ると、腸を通るときに細胞の免疫スイッチを入れて排出されます。
死んだ菌でも菌体があれば、効果があると言われています。
短鎖脂肪酸の合成
ヒトの消化管は、自力ではデンプンやグリコーゲン以外の食物繊維である多くの多糖類を消化できません。
しかし、大腸内の腸内細菌が嫌気発酵することによって、一部が
のような短鎖脂肪酸に変換されてエネルギー源として吸収されます。
健常者では、これらの3種類が短鎖脂肪酸の97%を占めます。
短鎖脂肪酸の利用
生成された短鎖脂肪酸はエネルギー源として、大腸で大部分が利用され、一部は血流に乗って全身に運ばれ、筋肉、内臓で利用されます。
低カロリーで食物繊維の豊富な食生活を送っている場合には、この大腸での発酵で生成された短鎖脂肪酸が重要なエネルギー源となっています。
乳酸
大腸内で乳酸が生成されると、腸内細菌により速やかに酢酸、酪酸、プロピオン酸、炭酸ガス、水素、メタンなどに代謝されます。
潰瘍性大腸炎罹患者の場合、罹患部位が広がるごとに短鎖脂肪酸のうち乳酸が占める割合が大きくなっています。
食物繊維からのエネルギー
消化できない食物繊維は、大腸内で腸内細菌によりヒトが吸収できる分解物に転換されます。
胃(滞在時間 約4時間)と小腸(滞在時間 約7~9時間)を経て、大腸(滞在時間 約25~30時間)で分解され、体内にエネルギーとして吸収されます。
この食後長時間を経て吸収される特徴から、エネルギー吸収の平準化に寄与しています。
食物繊維の望ましい摂取量は、成人男性で19g/日以上、成人女性で17g/日以上です。
加齢による腸内細菌の変化
腸内の細菌群のバランスは、年齢とともに変化します。年をとると悪玉菌の割合が増えてきます。
胎児
母体内で胎児は無菌に保たれています。
乳児
母乳を飲んでいる時は母乳中の乳糖、ガラクトオリゴ糖を栄養源として、ビフィズス菌が増殖し始めます。
赤ちゃんの便が黄色っぽく臭くないのはビフィズス菌が優位の腸内環境になっているからです。
母乳で育てられている乳児は、ビフィズス菌などのBifidobacterium属の細菌が最優勢で、他の菌が極めて少なくなっています。
人工のミルクで育てられている乳児では、ビフィズス菌以外の菌も多く見られるようになります。
このことが人工栄養児が母乳栄養児に比べて、細菌感染症や消化不良を起こしやすい理由の一つだと考えられています。
離乳期以降、離乳食を食べ始めると、大人の菌叢(きんそう)へと変化していきます。
成人
成人では、10~20%台の占有率でビフィズス菌が腸内に存在しています。
高齢
高齢になると、ほとんどの場合ビフィズス菌は減少し、若年ではまず検出されなかったウエルシュ菌などの悪玉菌が高確率で検出されるようになります。
あなたの腸内フローラをチェック
腸内フローラに悪玉菌が多いと、体調に現れます。
下記の項目をチェックしてみてください。
- 便やおならがくさい
- 便秘がちだ
- 口臭がきつい
- 疲れやすい
- 肩こりがひどい
- 吹き出物ができやすい
- 肌がくすんでいる
上記にひとつでもあてはまる人は、腸内で悪玉菌が優勢である可能性があります。
悪玉菌による有害作用
悪玉菌の作り出した有害物質は腸管の皮膚から吸収され、血管にのって全身をめぐります。
その結果、有害物質が運ばれた先でさまざまな不調を引き起こすのです。
悪玉菌が増えると、悪玉菌の出す有毒ガスによって腸管が麻痺するため便秘になりやすくなります。
便秘になるとさらに悪玉菌が増えるという悪循環が生じます。
腸活
腸に悪い生活習慣
腸内フローラのバランスが乱れる、悪玉菌が増える生活習慣をしていないかチェックしていましょう。
- コンビニ食、外食が多い
- 朝食を食べないことが多い
- 和食をほとんど食べない
- 魚より肉を多く食べる
- 揚げ物、油物が好き
- 乳製品や発酵食品はあまり食べない
- 野菜不足である
- スイーツが毎日欠かせない
- 食事は20分以内にすましてしまう
- 定期的な運動をしていない
- 薬(抗生物質)を多用している
3つ以上チェックがついた方は、要注意!
生活習慣を見直しましょう。
腸内細菌叢のバランスを良くするために、善玉菌を増やし、悪玉菌の増加を抑える食生活を実践しましょう。
善玉菌が好きなエサをやる
善玉菌の好物は乳酸菌や食物繊維、オリゴ糖などです。食事の時には、善玉菌にもエサをやる意識で食品を選びましょう。
プロバイオティクス
生きたまま腸内に到達可能な乳酸菌は、腸内の善玉菌を活性化させます。
乳酸菌・ビフィズス菌が多く含まれるのはヨーグルトや納豆、漬物、味噌、チーズ、キムチ、ザワークラウト、ピクルスなどの発酵食品です。
プレバイオティクス
食物繊維やオリゴ糖は、善玉菌のエサとなって、善玉菌の増殖を促します。
食物繊維は野菜や大豆製品、穀物、イモ、海藻、きのこ類に豊富です。
オリゴ糖は玉ねぎ、ごぼう、バナナなどに含まれています。
野菜の中でもオクラ、山芋、メカブといったネバネバ食品は、善玉菌の好物であることが知られています。
ニンニク(生)、玉ねぎ、アスパラガス、キクイモなどはお腹や身体にいいと実証されています。
不溶性食物繊維
不溶性食物繊維は、スポンジのように水分をためこみ、便の量を増やします。
穀類、大豆、ごぼう、完熟野菜類などに含まれています。
水溶性食物繊維
水溶性食物繊維は、ドロドロと粘りのある状態にします。ゴミをからめとり、体外へ運びます。
リンゴ、ミカン等の果物、芋類、 キャベツや大根等の野菜類、こんぶやわかめなどの海藻類、大豆、キノコ、こんにゃくに含まれています。
シンバイオティクス
プロバイオティクスとプレバイオティクスの両方の機能を併せ持った食品。
納豆に含まれる納豆菌には、腸内の悪玉菌を減らす働きがあり、腐敗菌の増加を抑制してくれます。
また、納豆菌が腸内で善玉菌として働き、他の善玉菌の増殖を促す働きもあります。
肉や甘いものを食べ過ぎない
たんぱく質を分解するのは悪玉菌なので、たんぱく質の多い食生活では悪玉菌が増えます。
ただし、たんぱく質が少な過ぎても腸の筋肉が弱まり、腸内フローラに悪影響となります。
また、甘いものを食べ過ぎると腸の働きが悪くなり、便秘になりやすくなるので善玉菌が減り、悪玉菌が増えます。
野菜など食物繊維をしっかりとり、好きだからと肉や甘いものを食べ過ぎないようにしましょう。
腸内フローラに悪いものを極力食べない
腸内フローラのバランスを壊したり、腸内を荒らす物質や食品をできるだけ食べないようにしましょう。
- 農薬(殺虫剤・防カビ剤・殺鼠剤)
- 加工食品
- 抗生物質の常用・乱用(抗生物質は善玉菌も始末する)
- 食品添加物
- 保存料
- 塩素処理飲料水(塩素は雑菌処理に効果的ですが、腸内細菌にとっても影響がある)
お湯、白湯を飲む
水分が不足すると、便を作れません。冷たい水分は腸の働きを抑えてしまうので、お湯、白湯など温かい飲み物で水分を摂りましょう。
食事の直後は避けて、寝起きや寝る前など小まめに、1日にコップ8杯ほどの量を飲みましょう。
生活リズムを整える
腸にとって最も大切なのは朝。
朝に起きて朝食を食べると、からっぽの胃に食物が入ることで、大腸に急なぜん動運動が起こり、排便を促すからです。
睡眠前の食事は、睡眠中に腸を無理に働かせることになり、腸の機能を低下させる原因に。
また朝になっても空腹を感じることが少なく、朝食を抜きがち。せっかくの排便チャンスを逃してしまいます。
夕食は睡眠の2時間前には済ませましょう。
睡眠不足や不規則な睡眠も便秘につながります。