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第2の脳:腸内細菌による脳への影響

腸は「第2の脳」と呼ばれるように、腸には1億個もの脳細胞が存在しています。

脳からの信号なしに、独自の神経系により機能することができます。

脳と腸、腸内細菌は、お互いに影響を及ぼす関係にあります。

  1. 脳と腸のつながり - 脳腸相関(脳腸軸)
  2. 腸内細菌とストレス
  3. 短鎖脂肪酸の影響
  4. 悪玉腸内細菌が認知症の原因に

脳と腸のつながり - 脳腸相関(脳腸軸)

「脳」と「腸」は、相互に情報伝達・情報交換を行っていて、互いに作用を及ぼしあう関係にあります。

ホルモンやサイトカイン(情報を持ったタンパク質)などの液性因子を利用したり、自律神経系のネットワークを介しての作用によって影響しあう、脳と腸の双方向的な関係を「脳腸相関」または「脳腸軸」と呼びます。

日常生活での生体現象

強いストレスを受ける
   ↓
胃が痛くなる

極度に緊張する
   ↓
空腹のはずなのに食欲が出ない
頻繁にトイレに行きたくなる

このような、不安を感じたりすると胃腸の調子が異常になってしまう現象を、経験したことはないでしょうか。

過敏性腸症候群

深刻なケースになると、過敏性腸症候群と呼ばれる病気となります。

ストレスや不安感
   ↓
腸管には疾患がみられないのに
便秘・下痢や腹痛といった症状が現れる

脳から腸へ

「脳」がストレスや不安を感じると、その情報が末梢の臓器に伝わります。

特に「腸」の機能に影響が出るという生体現象によるものです。

腸から脳へ

逆方向となる"腸から脳へ"向かう信号による現象として、「腸」で生じたさまざまな生理的・病理的な変化が「脳」へと伝えられて、脳内の情報処理機能に影響を与えます。

影響しあう脳と腸

脳腸相関によって、

脳が受けたストレス

腸の失調

として現れたり、

腸に起きた生理的変化

脳の機能

に影響を与えたり、一見不思議な現象が心身に起きます。

腸内細菌とストレス

ストレスを受けた体の反応

何らかのストレス刺激にと、"視床下部 - 下垂体 - 副腎軸(HPA軸)反応"と呼ばれる「ストレス応答」を起こします。

中枢から下垂体を経由した副腎への指令によって、コルチゾールやアドレナリンといった「副腎皮質ホルモン」が体内に分泌されます。

これによって、

  • 交感神経の活性化
  • 心拍数や血圧を上昇させる
  • 血糖値を高める

といった身体の活性化が行われます。

このストレス応答そのものは、恒常性(ホメオスタシス)が崩れた状態を、立て直して回復させるための反応ですから、適度なストレスであれば有益な反応といえます。

ところが、限度を超えるような強いストレスによる過剰な反応が起きると、"有害なストレス応答"として心臓・血管系や中枢神経の機能にダメージを与えたり、免疫活性を低下させたりして、疾患の原因を作ることになります。

マウスによるストレス反応

細菌類に感染されたことがない(腸内細菌を持たない)無菌マウスと通常マウス、さらに様々な人工細菌叢を持つマウスで、ストレス反応性を比較しました。

実験では、拘束ストレスによる負荷を与えることによって、コルチゾールなどの"ストレスホルモン"を分泌させる働きを持つホルモン「副腎皮質刺激ホルモン」の変化を調べました。

結果として、無菌マウスは通常マウスと比較すると、上昇反応が大きくなりました。

腸内フローラを持つ通常マウスに比べ、ストレスに対して過敏であると考えられます。

マウスの腸内フローラ

無菌マウスは、外界からの各種刺激(ストレス)に対して過敏で、アレルギーを抑制する力も弱い、という一般的特徴を持っています。

無菌マウスに細菌を植え付けていくと、次第にアレルギー症状が抑えられる現象がみられるようになります。

腸内フローラが外界因子として働くことで、免疫機能を成熟させ、アレルギー抑制が起きると考えられます。

人工細菌叢マウスでは、バクテロイデス属の腸内細菌を持つマウスと、無菌マウスとの間では、有意差はみられませんでした。

しかし、ビフィズス菌(ビフィドバクテリウム属の細菌)を持つマウスでは、副腎皮質刺激ホルモンの反応が通常マウスと同じ程度まで減少していました。

ビフィズス菌の関与によって、ストレス反応が抑制されたと考えられます。

他の報告例として、無菌マウスに通常マウスの腸内細菌を移植したら、ドナーとなったマウスの性質まで受け継いだというものがあります。

臆病な性質だったマウスが冒険的になり、大胆だったマウスが内気になったというのです。

乳酸菌(ラクトバチルス属の細菌)をマウスに経口投与したら、ストレスによる不安や抑うつに関連する行動が減衰したという報告もあります。

短鎖脂肪酸の影響

"腸内細菌が食物繊維から作る有用物質"として知られるようになった、酢酸・酪酸といった低分子の脂肪酸「短鎖脂肪酸」も、中枢神経に影響を与える物質として注目されます。

短鎖脂肪酸は、ヒトでは消化が難しい(難消化性の)食物繊維やオリゴ糖を材料にして、腸内細菌によって生成されます。

短鎖脂肪酸の大部分は、大腸粘膜組織から吸収され、上皮細胞の増殖や粘液の分泌、水やミネラルの吸収のためのエネルギー源として利用されています。

短鎖脂肪酸の1つである酪酸は、"抗うつ作用"を持つことが動物実験で明らかにされました。

酪酸は主にクロストリジウム属の細菌によって作り出されます。

悪玉腸内細菌が認知症の原因に

悪玉菌(腸内細菌叢の悪玉細菌)が放出したサイトカインなどの毒物が、迷走神経などを通じて脳に届き、脳神経細胞を弱らせます。

グリア細胞とミクログリア

脳の中にある細胞は、神経細胞(ニューロン)と神経膠細胞(グリア細胞)に大別されます。

主に情報処理にあたるのがニューロンで、そのニューロンを支えているのがグリア細胞といえます。

グリア細胞の中でも、ミクログリアと呼ばれる細胞は、他とは少し変わった性質を持っています。

ミクログリアは、脳内における免疫担当細胞であると考えられています。

神経組織がダメージを受けたときなどに活性化し、修復したり、排除したりといった脳内環境整備の役割を果たすのです。

悪玉菌と活性化型ミクログリア

悪玉菌がミクログリアを活性化させ、暴走したミクログリア(活性化型ミクログリア)が、炎症性サイトカインを産生して、炎症反応を引き起こします。

過剰なアミロイドβやタウ・タンパク質だけでなく、正常な神経細胞まで攻撃します。

神経炎症は、認知機能の低下に拍車をかけ、アルツハイマー型認知症などの中枢神経疾患の発症や進行に深く関わっています。

腸内環境