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EPA(エイコサペンタエン酸)

EPAはエイコサペンタエン酸の略称で、ニシンやサバ、サケ、イワシなど青魚などの魚介類に多く含まれる脂肪(油)です。

「血液をサラサラにする」ことで、血液の流れを良くします。

血流が良くなると、細胞へ酸素や栄養素をスムーズに運ぶことができ、老廃物を外に出すこともできます。

EPAのすごい効果

EPAを利用した研究で、作用の解明は不十分や解明されていない作用もありますが、様々な効果があると報告されています。

  1. 血管年齢を若く保つ
  2. 動脈硬化を防ぐ
  3. HDLを復活させる
  4. 中性脂肪を減らす
  5. 目に潤いを与える
  6. スポーツ機能をアップする
  7. アレルギーを改善する
  8. 高血糖状態を改善する

EPAってなに?

EPAとは、脂肪(脂質)の種類の一つです。

脂肪(脂質)は、炭水化物、たんぱく質と共に「三大栄養素」に含まれる、重要な栄養素です。

常温で固まりにくい「不飽和脂肪酸」の中でも体内で合成できないため外から摂取しなければならないのが「多価不飽和脂肪酸(必須脂肪酸)」。

その構造からω-3(オメガ3)脂肪酸とω-6(オメガ6)脂肪酸に分類されます。

ω-3(オメガ3)には、青魚に多く含まれるEPA・DHAや、えごま、亜麻仁など植物油脂に含まれる「α-リノレン酸」があります。

体内に入ったα-リノレン酸の一部10%~15%程は、EPAやDHAに変換されます。

青魚をはじめ魚介類にEPA・DHAが含まれるのは、海産の微生物によって生産されたものが、食物連鎖の過程で濃縮されているからです。

EPAの血液サラサラ効果

EPAは、1960年代にその働きが発見されて、

「血液の性状を健康に保ち、特に血栓ができにくくしたり、高脂血症を予防する」

「動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞を予防するという働きがある」

ということが世界中の医学者によって研究され続けてきました。

これが「血液をサラサラにする」と言われる作用です。

EPAは、免疫や凝血反応、炎症などにおいて過剰な反応を抑えるω6系統のブレーキ役として活躍します。

医療用医薬品として閉塞性動脈硬化症高脂血症治療薬として使われます。

DHAは、「血液をサラサラにする」働きがEPAに比べると低いと考えられています。

EPAは脳内にほとんどない

DHAとEPAはよく似た性質をもつ成分ですが、分子構造がやや異なります。

どちらも血液の流れをよくし、動脈硬化などの生活習慣病を予防することがわかっています。

一番の違いはDHAが血液脳関門、血液網膜関門を通って直接脳と目に入っていける、数少ない物質であるということです。

EPAはこの関門を通過することは困難で、脳内にはほとんど存在しません。

人間の脳は、水分を除くとおよそ半分くらいが脂質といわれていて、そのうちの4~5%がDHAです。

そして記憶学習機能をつかさどっている「海馬」と呼ばれる部分には、他の部位の2倍以上のDHAが存在しています。

それだけDHAは脳にとって不可欠な存在なのです。積極的に摂取しなければ少なくなっていきます。

ω-3とω-6の関係

ω-3(オメガ3)とω-6(オメガ6)は、で、細胞が正しく機能するためには不可欠な脂肪酸です。

2つの脂肪酸は互いに、
炎症作用(ω-6)と抗炎症作用(ω-3)
血液凝固作用(ω-6)と血小板凝集抑制作用(ω-3)
というように競合し合っていて
過剰な反応を抑えるω-3はブレーキ役と言えます。

ω-3とω-6の作用の増減
ω-3 ω-6
炎症作用
血液凝固作用

ω-3に対するω-6の比率が増加しすぎると、細胞が固くなったり、血液を固まりやすくしたり、炎症を起こしたりします。

  • 動脈硬化、血栓症など心血管系疾患
  • 骨粗しょう症
  • 関節炎
  • アレルギー
  • 自己免疫疾患

など、様々な病気の発症率が上がります。

もしω-3が過多になった場合は、凝血能が低下し、出血傾向が起きることがあります。大切なのはω-3とω-6のバランスです。

どれだけ食べればいいの?

厚生労働省
「日本人の食事摂取基準(2015年版)」
によると、目安量として、

DHAとEPA(エイコサペンタエン酸)を合計で、1日に1g以上を摂取することが望まれます。

DHA + EPA ≧ 1000mg / 日

(成人男性では2000mg以上、成人女性では1600mg以上が目安量です)

この摂取目標量は、具体的には、

  • アジの開き:0.7枚分
  • サンマの塩焼き:0.4尾分
  • ブリ(ハマチ)の刺身:4.7切分

に当たります。

ω-3は不足している

ω-3(α‐リノレン酸)とω-6(リノール酸)の摂取比率は、理想的な比率は1対1~4とされています。

現代の日本人のω-6(リノール酸)摂取量は、平均して13~15g/日です。

ω-3を積極的に摂る必要がありますが、目安量の最低値1日に1gを摂取しても、摂取比率は1対13となってしまいます。

過剰にω-6脂肪酸を摂取してるので、ω-6脂肪酸を7~8g/日に減らして、ω-3を増やしていく必要があります。

進む魚離れ

食事のメインは、魚食から赤身肉食が多数派に変わりました。

日本人の魚離れが進み、2006年に日本人の1日あたりの肉類の摂取量が、魚介類の摂取量を上回りました。

どの年代でも年々、肉類の摂取量が増加して、魚介類の摂取量が減少。全体として10年間で魚介類の摂取量が20%減少しています。

高齢になるほど肉類の摂取量が少なくなり、魚介類の摂取量が多くなりますが、若年層ほど肉離れが顕著に進行しています。

あなたは肉料理派? それとも魚料理派?

日ごろの主菜について、「肉料理の方が多い」か「魚料理の方が多い」かアンケート調査しまいた。

「肉料理の方が多い」または「どちらかというと肉料理の方が多い」と回答した
「肉料理派」は約67%

「魚料理の方が多い」または「どちらかというと魚料理の方が多い」と回答した
「魚料理派」は約11%

「どちらともいえない」は約22%でした。

肉料理派が圧倒的多数を占めています。魚を食べない理由について聞いたところ、

  • 同居の家族(子どもが68%)が魚介類を好まないから(32%)
  • 肉より割高だから(31%)
  • 魚介料理は調理が面倒だから(25%)
  • 魚焼きグリルを洗うのが大変だから(20%)

などが挙げられています。

EPAの量は変わる

マグロはDHAが多いと言われてますが、脂身の多い中トロ・大トロに多く、赤身には少ないです。赤身にEPAはほとんど含まれていません。

マグロ100g中のEPA・DHA
魚介名 区分 EPA
(mg)
DHA
(mg)
クロマグロ 脂身、生 320 3200
クロマグロ 赤身、生 11 120
ミナミマグロ 脂身、生 320 2700
ミナミマグロ 赤身、生 1 7

部位によって多い所もあります。
アンコウは肝が特に多いです。

アンコウ100g中のEPA・DHA
魚介名 区分 EPA
(mg)
DHA
(mg)
アンコウ きも、生 460 3600
アンコウ 2 23

魚卵には含有量が多いです。

シロサケ100g中のEPA・DHA
魚介名 区分 EPA
(mg)
DHA
(mg)
シロサケ イクラ 1600 2000
シロサケ 87 400

サバやサンマは、全体にEPAを含んでいますので、摂取しやすいです。

季節によって脂がのる魚は、含有量が増えます。

カツオ100g中のEPA・DHA
魚介名 区分 EPA
(mg)
DHA
(mg)
カツオ 秋獲り、生 56 970
カツオ 春獲り、生 3 88

刺し身など生で食べた場合を100%の量とすると、煮る・焼くなど調理した場合では80%程度、油で揚げた場合では50%程度まで減ってしまいます。

  • 生食:100%
  • 煮る・焼く:80%
  • 油で揚げる:50%

日干しや燻製などで、100g中の含有量が増える場合もあります。

ヤリイカ100g中のEPA・DHA
魚介名 区分 EPA
(mg)
DHA
(mg)
ヤリイカ 塩辛 26 690
ヤリイカ するめ 11 620
ヤリイカ さきいか 3 310
ヤリイカ 燻製 3 290
ヤリイカ 3 170

EPAが豊富な魚介類

魚介類100g中のEPA・DHA
魚介名 区分 DHA
(mg)
EPA
(mg)
シロサケ イクラ 1600 2000
ボラ からすみ 850 1900
アンコウ きも、生 460 3600
ウナギ 養殖、生 450 1100
タイセイヨウサケ 養殖、生 390 1400
タチウオ 360 1400
ギンザケ 養殖、生 340 1200
ハマチ 養殖、生 330 1700
ブリ 320 1700
クロマグロ 脂身、生 320 3200
ミナミマグロ 脂身、生 320 2700
ニジマス 海面養殖、生 300 1400
サバ 300 2300
イシダイ 260 290
マイワシ 260 1300
マナガツオ 250 650
ボラ 240 590
子持ちガレイ 230 380
ヤツメウナギ 230 1500
アナゴ 210 560
サンマ 210 1700
みりん干し まいわし 200 1300
サワラ 180 940
シマアジ 養殖、生 170 900
ハモ 170 640
メザシ 160 1400
サクラマス 160 960
キャビア 塩蔵品 150 1600
マダイ 天然、生 150 610
アマダイ 130 330
クロダイ 130 410
カタクチイワシ 120 770
メカジキ 120 530
キンメダイ 120 870
ナマズ 120 440
タイセイヨウアジ 110 890
カラフトマス 110 700
マサバ 110 700
シシャモ 生干し、生 110 550
カマス 100 940
コイ 養殖、生 94 500
カンパチ 92 730
ムロアジ 87 900
シロサケ 87 400
ヒラマサ 86 670
ホウボウ 84 420
マアジ 81 440
キダイ 81 330
ムツ 78 320
カラフトシシャモ 生干し、生 76 660
ニシン 76 770
スズキ 73 390
ギンダラ 72 360
ベニザケ 72 480
シタビラメ 69 170
マコガレイ 66 110
サヨリ 64 240
ブラックバス 64 390
ヒラメ 天然、生 58 290
フナ 58 110
カツオ 秋獲り、生 56 970
ヤマメ 養殖、生 56 470
イトヨリダイ 54 230
メバル 54 390
アイナメ 53 380
マカジキ 46 310
ハタハタ 45 710
ニシン 身欠きにしん 42 590
イワナ 養殖、生 40 350
タラコ 39 600
イカナゴ 38 650
みりん干し かたくちいわし 38 580
マガレイ 38 72
ウルメイワシ 36 670
アユ 天然、生 35 59
カズノコ 32 870
ソウダガツオ 31 470
タラコ 辛子明太子 27 530
ワカサギ 26 240
ヤリイカ 塩辛 26 690
ホッケ 25 530
シラウオ 19 360
サザエ 16 1
シャコ ゆで 16 120
ホタルイカ 15 450
ウニ 生うに 15 25
マフグ 13 84
シジミ 13 44
シラス干し 微乾燥品 12 260
クロマグロ 赤身、生 11 120
アワビ 11 1
ヤリイカ するめ 11 620
トビウオ 10 150
トラフグ 養殖、生 10 55
キス 9 36
カキ 養殖、生 7 71
蒸しかまぼこ 7 130
ハマグリ 6 38
アカイカ 6 200
マダコ 6 68
魚肉ソーセージ 6 50
エスカルゴ 水煮缶詰 5 0
サクラエビ ゆで 5 100
ズワイガニ 4 33
カツオ 春獲り、生 3 88
アサリ 3 18
スルメイカ 3 200
ヤリイカ 3 170
ヤリイカ さきいか 3 310
ヤリイカ 燻製 3 290
アンコウ 2 23

環境汚染物質に注意

魚には、水銀、カドニウム、鉛、すずなどの重金属、PCB、ダイオキシンなどの有害物質が含まれています。

重金属:水銀、カドニウム、鉛、すず

有害物質:PCB、ダイオキシン

妊婦は水銀に注意

妊娠している方、妊娠している可能性のある方は、メチル水銀を多く含む魚の食べ過ぎに注意が必要です。

メチル水銀は、特に胎児の中枢神経の発達に影響を及ぼすとされています。

マグロ、カジキなど大型魚、深海魚類は、メチル水銀濃度が高いので、

サンマ、イワシ、サバなどメチル水銀濃度が低い水産物は、特に控える必要はありません。
(※厚生労働省により食品健康影響評価でメチル水銀に有害影響が証明されなかったため)

ただし、特定の水産物を偏食すると、有害な環境汚染物質の摂りすぎになる可能性があります。

偏食は避け、バランスよく食べることを心掛けましょう。

妊婦の摂食量の目安

1週間に1回以下(80g程度/週)

  • クロマグロ
  • キンメダイ

1週間に2回以下(160g程度/週)

  • キダイ
  • マカジキ
  • ミナミマグロ
  • クロムツ

厚生労働省により、注意はされてませんが、

  • ツナの缶詰
  • カツオ
  • スズキ
  • ブリ
  • ハマチ
  • サバ
  • カレイ
  • タイ
  • ホッケ
  • サンマ
  • アジ

にも、メチル水銀濃度は、マグロと比較すれば高くはないですが、含まれています。

  • サメやカジキなどの食物連鎖の上位にある大型魚
  • カレイのように砂や泥の海底に生息する魚
  • キンメダイのような深海魚

は食べすぎに注意しましょう。

妊婦や子供はエビ・タラを食べましょう

米食品医薬品局(FDA)は2014年に、

「魚の適量の摂取が、子どもの成長に良いことが、科学的に示されたため」

水銀の含有量が少ないエビやタラなどの魚介類を、1週間に227~340g(2~3食分相当)の範囲で摂取するよう勧告しています。

魚に含まれる水銀が健康に及ぼす影響への懸念から、FDAは2004年の勧告で、魚介類の摂取上限を示しました。

この勧告により、女性が妊娠中に魚を食べなくなったり、親が子どもに食べさせるのを避けたりする傾向が強まっていました。

魚の適量の摂取が子どもの成長に良いことから、摂取下限を示して、魚を一定量以上食べるよう勧告を改めました。

EPAで死亡率が下がる

魚食と生活習慣病による死亡率の関係は、魚に含まれているDHA、EPAが大きく関わっていると考えられています。

「日本人の食事摂取基準」において、冠動脈疾患、脳梗塞、加齢黄斑変性症に対する予防効果が得られる可能性が高いことが認められています。

そこで、日本人の成人男女によるEPA及びDHAの摂取目標量(下限)を、1人1日当たり1gと設定されています。

魚を食べる人は「心筋梗塞」になりにくい

食事も含む生活習慣と、虚血性心疾患の発症との関連を、追跡調査しました。

※虚血性心疾患:心筋梗塞症など、心臓に血液を送る動脈の硬化や血栓などによって、心臓の血流が悪くなることで生じる疾患

調査:
厚生労働省 研究班
1990年から約11年
岩手県・秋田県・長野県・沖縄県に住む男女4万人

この結果、魚を週に8回食べる人は、
1回しか食べない人に比べて、
心筋梗塞を発症するリスクが約6割低い
ということが分かりました。

(2006年1月、米医学誌「Circulation」に発表)

EPAは血液をサラサラに

EPAには、血小板凝集抑制作用が強く、いわゆる「血液サラサラ」機能があります。

血流が良好であることは、細胞への酸素や栄養素の供給や、代謝産物(老廃物)の排泄に重要です。

さらに体温を体全体に行き渡らせることも、細胞機能維持には重要です。

EPAで血液がサラサラになって流れが良くなれば、酸素を運びやすくなり、運動しても疲れを減らせる効果が期待できます。

EPAに血管を若く保つ効果がある

イヌイットに冠状動脈疾患(心臓病)が少ないことから、1960年代にグリーンランドの村で、イヌイットの食事と血栓性疾患や血液の成分との関係の調査がおこなわれました。

EPAには赤血球の膜を柔軟にする性質があり、毛細血管のような狭いところへも、血液がスムーズに流れるようにします。

さらに、EPAには血管を柔らかくしなやかにする作用もあって、血管年齢を若く保つ効果があることも分かってきました。

加齢に伴い血管が老化すると、動脈硬化や血栓の形成などで、心臓病や脳梗塞などのリスクが高まりますが、EPAを摂取することで、これらの病気のリスクを低減させることができると考えられています。

九州大学が福岡県久山町の40歳以上の全住民約3,100人を対象とした疫学調査を2011年に発表しましたが、EPAとAAの血中濃度比率(EPA/AA比)により、EPAの比率が低いと心血管死亡率は約3倍も高くなることがわかりました。

動脈硬化を防ぐ

年齢を重ねるにつれ、血管も老化していきます。

血管の壁に、「コレステロール」や「中性脂肪」がたまって硬くなる状態が動脈硬化です。

動脈硬化が進んだ毛細血管に、大きな赤血球や血小板の固まりが流れてきた場合、そのまま詰まって血流がとまってしまいます。

これが血栓です。

血栓が心臓で起これば心筋梗塞、脳で起これば脳梗塞を誘発し、最悪の場合には命を落とすことになってしまいます。

DHAは、動脈硬化の原因であるコレステロール値の上昇を抑える働きがあります。

ラットを使った実験によると、DHAを投与したラットのコレステロール値が最も低くなるという結果が出ています。

心血管疾患を防ぐ

EPAは、不飽和脂肪酸のひとつであるω-6脂肪酸のアラキドン酸(AA)と、からだの中でシーソー関係にあります。

一般にAAは、魚を食べる機会が少ない人の体内で、EPAに比べ多い状態になります。

EPAとAAの血中のバランス指標が、EPA/AA比と呼ばれています。

血中EPA/AA比と心血管疾患発症リスク

40歳以上の久山町住民3,103名を対象に、

血清高感度CRP濃度別に

  • 高感度CRP 低値例(<0.1mg/dL、2,309名)
  • 高感度CRP 高値例(≧0.1mg/dL、794名)

に分け、

  • 血清EPA/AA比
  • 血清DHA/AA比

と心血管疾患発症を、平均5.1年間追跡調査をおこないました。

※CRPは様々な炎症性疾患で高値となります。

動脈硬化は、慢性炎症が関係していることが分かっていますので、慢性炎症を持っていて将来、心筋梗塞を起こすかもしれない人はCRPが高値となります。

※久山町は、福岡市に隣接する福岡県の中央西側に位置します。

久山町住民は、全国平均とほぼ同じ年齢・職業分布を持っており、偏りの小さい平均的な日本人集団であるといえます。

調査:
九州大学 大学院 医学研究院 病態機能内科学・環境医学 久山町研究室(2011)

対照:
2002年の時点で40歳以上の久山町住民3,103名

この結果、高感度CRP 高値例では、
EPA/AA比が0.20低下するごとに

  • 心血管疾患発症リスク:1.52倍
  • 冠動脈疾患発症リスク:2.23倍

上昇しました。

EPA/AA比 高値群(>0.59)に比べて、
EPA/AA比 低値群(<0.29)は
心血管疾患発症リスクが、3.84倍上昇しました。

また、高感度CRP高値例、低値例とも、
DHA/AA比と心血管疾患発症リスクには
関連が認められませんでした。

EPAが少ない人は、心血管疾患発症リスクが最大で約4倍まで上昇します。

魚を食べると「血栓」の形成抑制に大きな効果

ラットに、マイワシから抽出した成分を含む餌を与える実験を(独)水産総合研究センターがおこないました。

魚を食べることによる血栓の形成抑制は、

  1. 魚油成分が血液の凝固を抑制する作用
  2. 魚のタンパク質が血栓を溶かす作用

によってもたらされていることが実験からわかりました。

魚を食べると「魚油」と一緒に「魚タンパク質」を摂取することができ、この両方の作用が起こります。

このことから、魚を食べる食生活によって、血栓の形成が効果的に抑制され、

脳梗塞や心筋梗塞など血栓を原因とする疾病の予防に有効である可能性が示唆されました。

(2004年10月、ヨーロッパの栄養学雑誌「Annals of Nutrition and Metabolism」に掲載)

「高血圧」を改善する

高血圧に、血圧低下を目的として

  • オメガ3サプリメント
  • オメガ3を多く含む食品

を摂取することは、

  • 塩分の低減
  • アルコール摂取の低減
  • 運動量の増加

と同じくらいの効果がある

ことが、70報のRCT試験(無作為化比較対照試験)結果を分析したメタ分析により明らかになりました。

臨床的観点から、EPA・DHA摂取は血圧を下げ、最終的には関連する慢性疾患の発症率を低下させる可能性があると、研究者らは結論付けています。

血液をサラサラに、血管を若々しくする

血液が「ドロドロ」といわれる状態は、赤血球などの血液中の成分に柔軟性がなくなり、血流が悪くなる状態のことです。

血液粘度が高まると、心臓は全身に血液が回るように、必死になって圧力を高めます。

これが高血圧となるメカニズムのひとつです。

特に血液成分中で最も大きい赤血球の柔軟性が失われると、血圧はどんどん上昇していきます。

DHAには、赤血球などの血液中の成分をやわらかくする働きがあり、血液をサラサラにしてくれます。

EPAには、血小板が血管内で固まるのを防ぐ作用が備わっています。

DHA、EPAをあわせてとると、血流の改善により高い効果が期待できます。

魚介類を食べて「糖尿病」予防(男性)

魚介類摂取の状況と、糖尿病発症との関係を、5年間にわたって追跡調査しました。

調査:
(独)国立がん研究センターによる多目的コホート研究

対照:
岩手県・秋田県・長野県・沖縄県・東京都・茨城県・新潟県・高知県・長崎県・大阪府に住む男女5万人

この結果、魚介類、特に

  • 小・中型魚(アジ・イワシ、サンマ・サバ、ウナギ)
  • 脂の多い魚(サケ・マス類、アジ・イワシ、サンマ・サバ、ウナギ、タイ類)

の摂取により男性の糖尿病発症のリスクに低下がみられました。

この理由として、同研究センターは、
魚に含まれるDHAやEPAなどのn-3系多価不飽和脂肪酸や、ビタミンDが、

男性のインスリン感受性や、
インスリン(体内の血糖値を下げるホルモン)分泌に、
好ましい効果を与えている可能性を指摘しています。

(2011年8月、米国の栄養学雑誌「American Journal of Clinical Nutrition」に掲載)

海藻と魚を一緒に食べて「肥満防止」

海藻と魚を組み合わせて食べることが、肥満防止につながる可能性があります。

ラットに、「ワカメ」(海藻)と「魚油」(魚)を同時に摂取する実験を(独)水産総合研究センターがおこないました。

ラットのエサにワカメパウダーと魚油を加えて実験しました。

  1. 対照区(大豆油)
  2. 魚油
  3. ワカメ(+大豆油)
  4. 魚油+ワカメ(同時摂取)
ワカメと魚油の同時摂取後の血清
血清(mg/ml)
エサ 血清
対照区 2.2
魚油 0.9
ワカメ 1.2
魚油+ワカメ 0.8
ワカメと魚油の同時摂取後の肝臓の中性脂質濃度
肝臓の中性脂質濃度(mg/g)
エサ 中性脂質濃度
対照区 68
魚油 38
ワカメ 32
魚油+ワカメ 9

結果、

ワカメと魚油には、ともに血中の中性脂質濃度を低下させる作用があります。

DHAは、肝臓で中性脂肪が作られるのを抑え、さらに肝臓から血液へ中性脂肪が分泌されるのを抑えるため、血液中の中性脂肪を低下させます。

さらにワカメと魚油では作用のメカニズムが異なるため、
ワカメと魚を一緒に摂取することによって、
両者による中性脂質濃度の低下作用が足し算的に強くなる
ことを明らかにしました。

ご飯に「ワカメの味噌汁」と「焼き魚」といった、典型的な日本食のメニューが、中性脂質濃度の上昇に伴う肥満や、動脈硬化の予防に有効である可能性が示唆されました。

(2002年4月、アメリカの栄養学雑誌「The Journal of Nutrition」に掲載)

魚を食べる人は「アルツハイマー性認知症」になりにくい

最近はアルツハイマー型認知症が増加しており、全認知症患者の8割近くを占めています。

この病気の予防には、知的活動や運動も大切ですが、食生活も重要な要因。

魚を1日に1回以上食べる人と比べると、全く魚を食べない人は、アルツハイマー性認知症を5倍の確率で発症するという調査結果が出ました。

DHAには、NGF(神経成長因子)という、脳細胞の働きを高めるのに不可欠な栄養素の産出量を増やす働きがあることがわかってきました。

NGFは現在、アルツハイマー型認知症の改善に役立つ栄養素として最も注目されている成分のひとつです。

DHAが脳の老化を防ぐ

脳の神経細胞は、35歳を過ぎると、1日10万個という単位で死滅していくと言われています。

しかも一度失われると二度と再生されません。

神経細胞の膜の中のDHAも、歳をとるにつれて減りやすくなり、柔軟性を失ったシナプスの細胞膜は、情報伝達の機能が衰えてしまいます。

加齢とともに数が減っても、残っている神経細胞が活発に働いてくれれば、脳の老化は食い止められます。

血液脳関門を通過できるDHAを日常的に十分に摂取していると、次第に脳内のDHA量が若い頃と同じレベルに回復し、脳の老化の抑制に効果的であることがわかっています。

魚介類の摂取により「肝臓がん」リスクが低下

魚・n-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量と、肝臓がん発生との関連を調べました。

調査:
(独)国立がん研究センターによる多目的コホート研究

1995年と1998年にアンケート調査に回答した、45~74歳の男女約9万人を、2008年まで追跡調査しました。

対照:
岩手県・秋田県・長野県・沖縄県・茨城県・新潟県・高知県・長崎県・大阪府
45~74歳の男女
約9万人

この結果、

  • n-3系多価不飽和脂肪酸を多く摂っているグループ
  • n-3系多価不飽和脂肪酸を多く含む魚(サケ・マス類、タイ類、アジ、イワシ、サンマ、サバ、ウナギ)を多く摂っているグループ

にて多く摂っているほど、肝臓がんの発生リスクが低いことが分かりました。

肝臓がんの多くは、B型・C型肝炎ウイルスの感染者から発生しますが、分析の対象を肝炎ウイルス陽性者に限っても、同様の結果がみられ、特にC型肝炎ウイルス陽性者では、肝臓がんリスクの低下が顕著にみられました。

これらの理由として、n-3系多価不飽和脂肪酸が持つ慢性肝炎への抗炎症作用や、肝臓がんのリスクと考えられているインスリン抵抗性を改善する作用が働いている可能性が指摘されています。

(2012年6月、米国の消化器病学雑誌「Gastroenterology」に掲載)

炎症(アレルギー)を防ぐ

わたしたちの体内には外部から異物(抗原=アレルゲン)が進入すると、抗体をつくって異物を攻撃し、排除する防御機能が備わっています。

けれどもこの防御反応が過剰になると、花粉など通常生活では無害である抗原に反応して、抗体自体が体に悪影響をおよぼすことがあります。

  • ぜんそく
  • 花粉症
  • アトピー性皮膚炎
  • 食物アレルギー
  • 蕁麻疹

などは、そのような体の過剰な防衛反応から起こるアレルギー性疾患です。

DHAには、
「プロスタグランジン、ロイコトリエンとPAF(パフ)というサイトカインの生産抑制効果がある」
という結果がでています。

視力を回復させる

DHAは視力の回復にも有効であるという実験結果がでています。

網膜の脂肪には約50~60%のDHAが含まれています。

視神経を通じて、視覚情報を脳に伝える仕組みは、脳の情報伝達の仕組みと同じです。

DHAは血液網膜関門も通過できる物質です。

DHAにより直接、網膜細胞をやわらかくする働きによって、網膜の反射機能を高めて、視力回復に役立つことが期待されています。

ドライアイの発症を減らす

魚・n-3系脂肪酸の摂取量、n-6系脂肪酸との比率、ドライアイの発症との関連を調べました。

調査:
米国ボストン(2005)
過去4年間で医療機関において、
「ドライアイと診断されたことがあるかどうか」
の質問をおこない、食事調査から算定される脂肪酸摂取量との関係を解析しました。

全対象者の1日当たりのEPAやDHAを含むn-3系脂肪酸の摂取量を、少ない方から多い方へ段階的に、5つのグループに分け、各グループのドライアイ発症の状態を解析しました。

対照:
女性健康調査(WHS)の3万9876名の女性医療専門家のうち、食事とドライアイ症候群(DES)に関する情報を提供した
45~84歳の女性3万2470名

1546人(4.7%)の被験者がDESを報告しました。

この結果、
n-3系脂肪酸を最も多く摂取しているグループ(1.99g以上/week)は、
最も少ない摂取のグループ(0.92g以下/week)のドライアイ発症のオッズ比を1としたとき、有意に低い0.83(P=0.04)という結果でした。

また
卵や畜肉、植物性油脂などに多く含まれるn-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸の摂取量の比(n-6/n-3比)と
ドライアイ発症の関係を調べた結果、
n-6/n-3比が15(15:1)以上の群は、
4(4:1)未満の群の2.5倍のオッズ比
であることがわかり、
n-6とn-3のバランスがドライアイ発症にかかわっていることが推定されました。

また、この論文では、食事摂取の中でも、

  • マグロ
  • マグロ以外の赤身の魚
  • 白身の魚
  • その他の魚介類

の1週間の摂取頻度と、
ドライアイ発症の関係についても解析しています。

その結果、
マグロ摂取量とドライアイ発症は逆相関し、
週1回以下(1食分は113g:4オンス)のマグロを摂取する群に対し、
2~4回摂取する群:19%のオッズ比の低下、
5回以上摂取する群:68%のオッズ比の低下
という結果を報告しています。

睡眠の質を高める(魚と睡眠とIQの意外な関係)

魚に含まれるオメガ3脂肪酸EPA・DHAは

  • 頭を良くする(認識機能が改善される)
  • 睡眠の質を上げる(睡眠障害が改善される)

作用が知られていました。

米ペンシルバニア大学の研究チームで、
「睡眠の質の改善が、IQスコアなど知性に関する機能の向上にもつながっている」
のではないかと推測し、検証しました。

対象:
9~11歳までの中国人の子ども541人

調査:

  • 魚の消費量を調査
    (どれだけの魚を食べているか、過去1か月の魚の消費量のアンケート調査を実施した)
  • IQを測定
    (語彙や文章構成能力、非言語スキルなどからIQスコアを評価するテストを受検した)
  • 睡眠の質を評価
    (子どもたちの両親に、睡眠持続時間や夜間の覚醒、昼間の眠気などの項目を含む睡眠習慣評価表に則った質問をおこない、子どもたちの睡眠の質を評価した)

結果、めったに魚を食べない子供のIQと比較して

  • 頻繁に魚を食べる子供のIQ:4.8ポイント高い
  • 時々、魚を食べる子供のIQ:3.3ポイント高い

それに加え、魚の消費が多いことが、睡眠障害や睡眠に関する問題が解消され、これが睡眠の質の向上につながっているとされています。

研究者達は、魚を食べる方がIQが高い理由は、オメガ3脂肪酸により、睡眠の質が向上するためではないかとみている。

(2017年12月21日、オープンアクセスの科学誌「Scientific Reports」に掲載)

スポーツ機能を高める

EPAはスポーツ機能向上に有効

EPAは、運動する人にとってもプラスの効果があると期待されています。

EPAをトレーニング中に摂取すると、血液サラサラ効果で細胞への酸素供給能力が高まり、持久力の向上につながるとのこと。

また、運動時に踵が着地する際の赤血球破壊が減り、スポーツ貧血の予防となる効果が期待されています。

DHAサプリメントのスポーツ機能向上

DHAは細胞膜リン脂質に組み込まれており、その化学構造に由来して細胞膜流動性を高め、また赤血球変形能を高めることが知られています。

すなわち血管の柔軟性や、毛細血管での血行促進作用を高めることで、全身の細胞への酸素供給が改善される。

このようなメカニズムを期待して、大学陸上競技部選手を対象としたヒト試験をおこないました。

・DHAサプリメントを摂取してトレーニングした選手
・DHAサプリメントを摂取しないトレーニングのみの選手
10,000mの4ヶ月後の記録短縮時間を比較

  • 摂取した選手:平均51秒
  • 摂取しなかった選手:20.7秒

DHAサプリメントのスポーツ機能向上に、有効性が示唆されました。

血行促進はスポーツパフォーマンス向上に止まらず、高次トレーニングにも耐えられるだけの疲労回復作用も期待できます。

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