老化する細胞
人は年をとるにつれて、慢性疾患や、脳卒中、心臓病、がんなどの病気を発症しやすくなる傾向にあります。
これらの原因のひとつに「細胞の老化」が挙げられます。
人の体は、成人で約37兆個の細胞により身体が構成されています。
この細胞の一つひとつの中に、いくつかのミトコンドリアとDNAが収められた核があります。
ミトコンドリアは人が活動するエネルギー(ATP)を作り出していますが、ミトコンドリアは段々と機能が衰えてきます。
ミトコンドリアがエネルギーを作るときに、同時に活性酸素も産出されますが、ミトコンドリアの機能が衰えると活性酸素の産出量が増えていきます。
この活性酸素によりDNAに損傷が起こります。
DNAが損傷すると細胞は分裂しますが、細胞はあらかじめ決められた回数しか分裂できません。
分裂回数の限度を超えると、損傷しても分裂ができなくなります。
分裂の限界回数は細胞によっても異なります。
脳および神経や心筋の細胞などは、最初からほとんど分裂能をもたないため、細胞の破壊によって直接臓器の老化につながります。
その他のほとんどの臓器は、分裂の限界回数が約50回のため、この回数を迎えることにより、臓器が老化します。
皮膚の表皮や小腸の上皮細胞は細胞は、約5000回ほど分裂できると言われています。
テロメラーゼを活性化して細胞を若返らせる
分裂回数を増やす酵素「テロメラーゼ」を活性させることで、細胞の老化を防ぎましょう。
活性化させるポイント
- 野菜中心の食事をする
- 有酸素運動をする
- 十分な睡眠をとる
- ストレスを管理する
- 良好な人間関係をもつ
テロメア(染色体末端)
テロメアは、細胞の核にある染色体の両端にある特有のDNA塩基配列で、DNAのほつれを防ぐ"キャップ"のような役割をしています。
DNAの分解や修復から染色体を保護し、物理的および遺伝的な安定性を保つ働きをしています。
染色体の末端部にテロメアがあるなら正常なDNAで、そうでなければ感染したウイルスに由来するものや、DNA損傷による切断によって生じたものです。
DNAは放射線や変異原、酸化ストレスによって損傷を受けるので、細胞を分裂して複製します。
ヘイフリック限界と細胞老化
テロメアは単純な反復配列からなり、細胞が分裂して複製されますが、テロメアは完全に複製されず、分裂するたびに100塩基対ほどが失われて短くなります。
細胞は50~60回ほど分裂すると、テロメアが限界まで短くなり、それ以上の細胞分裂は不可能となります。
この分裂回数の制限を「ヘイフリック限界」と呼ばれ、限界に達した細胞は細胞老化となります。
テロメアが短縮すると染色体が不安定になり、がん化の原因となるため、一定以上短くなると一時的な細胞老化が誘導されています。
様々なストレス(酸化ストレス、放射線、がん遺伝子の異常活性化など)が原因となって、細胞老化が誘導されることから、細胞老化は細胞の異常な増殖を防ぎ、がんの発生を予防する、生体の防御機構のひとつだと考えられます。
細胞老化による影響
細胞老化すると、臓器の機能が低下していきます。
例えば胃が老化すると、胃壁細胞からの胃酸分泌量、主細胞からのペプシノーゲン分泌量が低下するだけではなく、消化管運動も低下してきます。
血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」となり、糖尿病、高血圧、高脂血症など生活習慣病の原因となります。
老化細胞により慢性炎症に
老化細胞は、体内に比較的長く存在し続ける細胞です。
加齢に伴い、生まれた時から存在する細胞が老化細胞に変化していき、次第にその量は増えていきます。
老化細胞からは、慢性炎症の原因となる炎症性サイトカインが分泌されています。
加齢により蓄積される老化細胞が、臓器や組織の機能低下を引き起こし、さまざまな加齢性の疾患をもたらす誘因となっていることが考えられています。
認知症とも関係している
2,000人の脳の画像とテロメアを分析したところ、テロメアが減って短くなった人ほど、脳が萎縮していました。
特に、記憶をつかさどる海馬で萎縮が顕著に見られました。
海馬が縮小すると、認知症のリスクや脳機能が衰えるリスクが高くなると考えられます。
テロメアの短縮が、脳の老化に深く関係しているのです。
細胞の老化を引き起こすもの
- 酸化ストレス
- 喫煙
- 酒
- 放射線
- がん遺伝子の異常活性化
- 高カロリー(糖分を多く含む)炭酸飲料
- 塩分の多い食品
- 心理的ストレス
- 孤独
高カロリーの炭酸飲料
高カロリー(糖分を多く含む)の炭酸飲料や塩分の多い食品を摂り過ぎると、肥満や生活習慣病の発症が増えるだけでなく、細胞の寿命に関わる「テロメア」が短くなり、老化が進みやすくなります。
加齢による細胞の変化
加齢により、細胞内に存在しており、私たちが活動するためのエネルギーを作りだす「ミトコンドリア」の質が低下します。
ミトコンドリアは、エネルギーを作る過程で活性酸素ができますが、活性酸素を消去する酵素である「スーパーオキシドディスムターゼ 2(SOD2)」という物質を作ることにより、活性酸素を除去します。
ミトコンドリアの質の低下により、SOD2の量が減少し、活性酸素の除去が遅くなり、活性酸素による細胞へ直接的にダメージを受ける機会が増えます。
このことで細胞数の減少や機能の低下が起こります。
細胞を若返らせるテロメラーゼ
テロメラーゼは、テロメアの特異的反復配列を伸長させる酵素です。
がん細胞では多くの場合、「テロメア」の末端を伸長させる「テロメラーゼ」という酵素の活性により、無限に増殖することができます。
テロメラーゼのサプリメントで寿命は延ばせる?
テロメアを伸ばす酵素「テロメラーゼ」の分泌を体内で促すというサプリメントが売り出されています。
不老不死の薬のようですが、残念ながら人工的にテロメラーゼを無理やり多くするというのは危険です。
テロメラーゼが過剰になると害があるからです。特定のがんのリスクを高めるなど、悪い副作用が出る可能性が高くなります。
テロメアを長くするのに効果的な生活スタイル
次の生活習慣を5年にわたって継続したところ、参加者のテロメアは平均で10%も伸び、がんの進行も遅らせることができました。
食事
野菜中心の食事が良いです。
全粒粉の穀類、野菜、果物、豆類などの植物性食品を積極的にとり、脂肪の多い動物性食品や精製された炭水化物を控えめに。
オメガ3脂肪酸が豊富な魚や海藻なども摂りましょう。
食事のカロリー摂取量を減らしましょう。
運動
筋トレよりもジョギングなど、軽めの有酸素運動を続ける方が有効です。
ウォーキングなどの適度な有酸素運動を、1日30分、週に3日から6日おこないましょう。
睡眠
7時間以上の睡眠をとりましょう。
必要以上の寝過ぎも良くありません。
ストレスの管理
毎日10分の瞑想はストレス軽減に効果的です。
運動によってもストレスを減らすことができます。
気持ちよく汗を流しましょう。
1日60分のヨガをべースにした簡単なストレッチや呼吸法を取り入れるのも効果的です。
呼吸法:
4秒間かけて息を吸い、4秒間かけてはき出します。
この呼吸をしながら、花、ろうそく、夕日などを見つめます。
1日10分から始めましょう。
瞑想
2カ月間にわたって1日12分ずつ瞑想した人たちは、テロメアの変化を遅らせることができました。
テロメラーゼは、平均で43%も増加しました。
家族や地域の人間関係
友人やパートナーとの良好な関係を保つことも大切です。
孤独で気分が沈んでいる人はテロメアが短く、3倍以上も病気になりやすくて、早死にする傾向にあります。
愛情ある人間関係を築きましょう。
社会的サポート
グループサポートに週に1回参加します。
食事や運動、ストレス管理について指導を受けましょう。
細胞が若返るレスベラトロール
赤ブドウ、赤ワイン、ダークチョコレートなどに含有される、「レスベラトロール類似体」と呼ばれる化学物質があります。
レスベラトロールは、老化した細胞を再び、若い細胞のようにふるまい、分裂を始めさせる可能性があり、研究がすすめられています。
地中海食がテロメアを伸ばす
地中海食は、心疾患や肥満、糖尿病などの生活習慣病のリスクを低下させる、健康的な食事であると言われていますが、2014年にアメリカのハーバード大学の研究班により、ヒトでもことが示唆されました。
「Nurse's Health Study」の参加者4,600例以上のデータを用いて、地中海食に近い食事をしているかどうかを9点満点の点数をつけ、その点数とテロメアの長さとの相関をしらべました。
その結果、点数が高く地中海食に近い食事をしている人ほど、テロメアの長さが長いことがわかりました。