人の体は、成人で約37兆個の細胞により身体が構成されています。
この細胞一つ一つの中には核が存在していて、染色体と呼ばれるDNAの束が収められています。
染色体の末端部分にあるのがテロメアです。
このテロメアが、老化や病気に関連する健康寿命、そして見た目の若さに大きく影響をしています。
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人の体は、成人で約37兆個の細胞により身体が構成されています。
この細胞一つ一つの中には核が存在していて、染色体と呼ばれるDNAの束が収められています。
染色体の末端部分にあるのがテロメアです。
このテロメアが、老化や病気に関連する健康寿命、そして見た目の若さに大きく影響をしています。
全ての生き物は1つの細胞から始まります。
分裂して2つになり、さらに2つが分裂して4つになりと、分裂を繰り返しながら、約37兆個の細胞にを形成し、成体を形作ります。
成体になってからも、細胞の補充が盛んに行われています。
細胞によっては何千回も分裂する必要があるものもあります。
細胞が分裂するたびに全てのDNAが複製されなければいけません。
細胞が正常に活動するために不可欠な情報が、翻訳性DNAに含まれているからです。
しかし、DNAの複製過程に問題があります。
毎回、細胞が分裂しDNAが複製されるたびに、いくらかのDNAが端から擦り切れ、短くなっていくのです。
この部分が非翻訳性DNAのテロメアDNAです。
靴ひもの先端についている保護キャップのようなものをイメージしてください。
細胞が分裂するたびに翻訳性DNAを守る保護キャップが短くなります。
保護キャップが限界まで短くなると、細胞は分裂できなくなります。
分裂できない細胞は老化します。
皮膚の細胞で考えてみましょう。
活発に分裂を繰り返し、若い細胞を生み出し続け、1、2か月で新たな表皮に入れ代わっています。
この細胞分裂に深く関わっているのが、細胞の染色体の端にあるテロメアです。
細胞が分裂するたびに少しずつ数が減り、テロメアは短くなっていきます。
生まれた時は、およそ1万5,000ほどとされます。
35歳でおよそ半分に減少。
6,000を下回ると染色体が不安定になります。
さらに2,000になると細胞が分裂を停止します。
この分裂できなくなった状態は「細胞老化」と呼ばれます。
染色体が不安定になり、細胞ががん化することを抑制するために、分裂を停止すると考えられています。
細胞老化を起こした細胞は「老化細胞」と呼ばれます。
人は年をとるにつれてテロメアが短くなり、細胞が分裂できなくなり、それ故に年老いるのです。
老化細胞は、体内に比較的長く存在し続ける細胞です。
加齢に伴い、生まれた時から存在する細胞が老化細胞に変化していき、次第にその量は増えていきます。
加齢により蓄積される老化細胞が、臓器や組織の機能低下を引き起こし、さまざまな加齢性の疾患をもたらす誘因となっていることが考えられています。
テロメアが長ければ長い人ほど長生きです。
テロメアが短くなりすぎると、加齢を自覚し、その兆候が現れ始めます。見た目も変わってきます。
皮膚の細胞は死に始め、皺が見え始めます。
髪の毛の色素細胞が死ぬと、白髪が見え始めます。
免疫系の細胞が死ぬと、病気にかかる確率が高くなります。
現代人の主たる死亡原因である
の発症にテロメアの短縮が関与しているのです。
テロメアが短くなってくると、染色体が不安定になります。
そうすると遺伝子の変異が起きやすいという状態になります。
これは「がんになりやすい」と状態と考えられます。
テロメアの長さは、食道がん、口腔のがん、すい臓がん、皮膚がんなどと関連しています。
2,000人の脳の画像とテロメアを分析したところ、テロメアが減って短くなった人ほど、脳が萎縮していました。
特に、記憶をつかさどる海馬の萎縮が顕著でした。
海馬が縮小すると、認知症のリスクや脳機能が衰えるリスクが高くなると考えられます。
テロメアの短縮が、脳の老化に深く関係しているのです。
老化細胞からは、炎症症状を引き起こすサイトカイン(細胞どうしが連絡をとりあう信号)の「炎症性サイトカイン」が分泌されています。
炎症は、異物や、死んでしまった自分の細胞を排除して、生体の恒常性を維持しようという反応と考えられます。
炎症性サイトカインは、炎症を強めます。
老化細胞から炎症性サイトカインが分泌され続けることにより、慢性炎症の原因となります。
慢性炎症は、機能障害や細胞・組織の崩壊をもたらし、様々な加齢性疾患の発症を促進してしまいます。
40歳前後の人たちの血液を採取し、白血球のテロメアの分析をしました。
結果、テロメアの長さはばらばらで、35歳相当の長い人から80歳相当の短い人までいました。
同じ年齢でもテロメアの長さは大きな個人差が出ました。
テロメアは、ストレスによって縮まるのです。
精神的なストレスや肉体的なストレスが、細胞の酸化ストレスとなって、DNAの損傷が起こりやすくなります。
がん化を防ぐために、細胞は分裂して、テロメアが縮まります。
例えば、たばこを吸う人は、のどや肺の細胞のテロメアが短くなります。
テロメアが短縮すると染色体が不安定になり、がん化の原因となります。
このため、テロメアの長さを監視する機構があり、一定以上短くなると一時的な細胞老化が誘導されます。
また、DNAの切断が生じた場合も、細胞周期を停止させ、細胞分裂が起こらないようにし、その間に染色体の修復を行います。
それでも復旧できなかった場合は、不可逆的な細胞老化状態に入るか、アポトーシスによって排除されます。
これらの機構を逃れた細胞はがん化します。
このように細胞老化の多くの原因は、DNA損傷によって誘導されます。
DNA損傷は放射線や変異原、酸化ストレスによって引き起こされます。
小さな緑藻「テトラヒメナ」は、米粒のような外見の小さな単細胞真核生物です。
テトラヒメラの細胞は、年を取ることも死ぬこともありません。
テトラヒメラには、2万ほどの短い直線状の染色体があり、染色体の最先端にテロメアがあります。
不思議なことにテロメアは、時を経ても短くならないのです。長くなることさえあります。
これはテロメアを補充し、伸長を可能にする酵素「テロメラーゼ」の働きだとわかりました。
テロメラーゼをテトラヒメナから取り去ると、テロメアは短縮し、テトラヒメナは死ぬのです。
テロメラーゼが、テトラヒメラの細胞を不死にしているのです。
人の細胞にもテロメアを補充し、伸長を可能にする酵素テロメラーゼがあります。
テロメアが短くなるのは、テロメラーゼによるテロメアの修復速度よりも、テロメアの短縮速度が早いためです。
では、テロメラーゼを人工的に増やすことができれば、テトラヒメラの細胞のように、年を取ることも死ぬこともなくなるのでしょうか?
残念ながら、遺伝子研究から人のテロメラーゼの操作は、がんのリスクが増加することがわかりました。
ガン化した細胞は無限に増殖できますが、ガン細胞にはテロメラーゼ活性がみられます。
ガン細胞のテロメアは短いのですが、テロメラーゼによってテロメアが細胞分裂のたびに修復され、テロメアの長さを維持していることで、無限に細胞分裂ができると考えられます。
このことからテロメラーゼを標的とした抗ガン剤の開発が行われています。
アメリカで、自宅でもできる簡単な方法でテロメラーゼを増やすことができないか、実験が行われました。
次の生活習慣を5年にわたって継続したところ、参加者のテロメアは平均で10%も伸び、がんの進行も遅らせることができました。
野菜中心の食事が良いです。
全粒粉の穀類、野菜、果物、豆類などの植物性食品を積極的にとり、脂肪の多い動物性食品や精製された炭水化物を控えめに。
オメガ3脂肪酸が豊富な魚や海藻なども摂りましょう。
食事のカロリー摂取量を減らしましょう。
筋トレよりもジョギングなど、軽めの有酸素運動を続ける方が有効です。
ウォーキングなどの適度な有酸素運動を、1日30分、週に3日から6日おこないましょう。
7時間以上の睡眠をとりましょう。
必要以上の寝過ぎも良くありません。
毎日10分の瞑想はストレス軽減に効果的です。
運動によってもストレスを減らすことができます。
気持ちよく汗を流しましょう。
1日60分のヨガをべースにした簡単なストレッチや呼吸法を取り入れるのも効果的です。
呼吸法:
4秒間かけて息を吸い、4秒間かけてはき出します。
この呼吸をしながら、花、ろうそく、夕日などを見つめます。
1日10分から始めましょう。
2カ月間にわたって1日12分ずつ瞑想した人たちは、テロメアの変化を遅らせることができました。
テロメラーゼは、平均で43%も増加しました。
友人やパートナーとの良好な関係を保つことも大切です。
孤独で気分が沈んでいる人はテロメアが短く、3倍以上も病気になりやすくて、早死にする傾向にあります。
愛情ある人間関係を築きましょう。
グループサポートに週に1回参加します。
食事や運動、ストレス管理について指導を受けましょう。
テロメアの研究でノーベル賞を受賞した生物学者、エリザベス・ブラックバーン氏が、自身の研究に基づき、老化を遅らせる方法を紹介しました。